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進軍 -崖+川=水しぶき-

作戦内容はまず、軍を二つに分け、一軍をアルビーズからガルム回廊を掃討し、
レクスールヒルズに、もう一軍はイルヴァーナからレクスールヒルズに向けて進軍させる。
対するビスクは、城付近を戦場にする訳にはいかないために、
打って出てこざるをえないだろう。問題は打って出てくると思われる場所だ。
ビスク軍はどうしてもビスク付近を戦場にしたくはないはずだから、
どうしても目の前の石橋の前で食い止めたいと思うはず。
更にエルガディンの民の得意な高所での戦闘は避けてくるに違いない。
予想では、ちょうどガルムとイルヴァーナからの道が合流する地点に軍を構えるはずだ。
挟撃に備えられて、尚且つレクスールヒルズに大きく渡る谷付近での
足場の不安定な戦場を回避できるポイントが此処だけだ。
ただし、狭い場所に団子になるために、ビスク得意の大軍で押し切る戦闘には向かない。
軍が動きづらいのはこちらも一緒だけどそこで粘られて消耗戦、長期戦になる事はこちらも避けたい。
方法としては、尖頭型の陣形を組んで中央を突破するか、
イルヴァーナ軍を徐々に下げて引っ張られる形で出てきた敵軍の横腹を
ガルム側から進行して来た軍が攻撃して敵を分断するか。
どちらにせよ相手側も想定するであろう戦術だから、少しでも戦況を良くする為
たくさんの偽報を流して、各地に敵戦力を分散させるように仕向けている。
けれど、こんな作戦は、イルミナ派の烏合の衆にならともかく、
アクセル・キール率いる洗練された軍にどこまで通じるか。
今が混乱期であるから、多少は通じると思う。
けれど、時が経って、アクセル様によって軍が整えられれば、こんな作戦は"一切"通用しなくなる。
私達に残された手数も時間は僅かだ。ここで全てが決する・・・!!

「お銀さん。」

セシルさんが横から顔を覗き込んできた。ちょっとびくっとしたけれど、すぐに平静を装って答えた。

「う、うん?どしたの?」

「なんか少しぼうっとしてたみたいだから。足元、気をつけてくださいね?」

「ああ、うん。気をつける。」

珍しい長雨があった所為で、足元がぬかるんでいる。
しかも今はがけ沿いの道を進軍中なのだ。
さっきテンもふらついてよろけていた。
滑ってがけ下に落ちたりでもしたら、笑い事では済まされない。
けど、それにしても。

「雨上がってよかったね。まだ足元は酷い有様だけど、雨の中の進軍に比べたらねー。」

「そうですね。雨の中だと視界も悪くなりますし。まあ、向こうにとっても好条件になっちゃいますけど。」

「まあねー。でも悪条件同士で戦うのもあれだしね。やっぱりあがってよかった。」

「ふふっ。私のおまじないがきいたんですよー。」

liletiaさんがにやにやと笑いながら言う。

「おまじないって?」

私が聞き返すと、liletiaさんはやっぱりふふふ、と笑いながら、

「内緒です。」

と言った。なによ、教えてよー、教えてくださいよー、と、
私とセシルさんでつついていると、前方から厳しい叱責の声が飛ぶ。

「そこ!進軍中は私語を慎むように!」

『「[は!]」』

私達三人は、威勢良く同時に返事をして、顔を見合わせて首をすくめた。
Diasさんは、やっぱりおっかない。でも、やっぱり人望があるのは、
Diasさんが自分にも他人にも厳しい人だからだと思う。だから、Diasさんの周りには自然と人が集まってゆく。
面倒見が良くて優しくて、でも厳しい。いろいろと苦労ごとをかかえそうな、そんな感じよね。

「うわぁあ!!」

突然、悲鳴が聞こえた。そちらを見る。と、がけにつかまる小さな手が見えた。
テンだ。どうやら足を滑らせたらしい。

「ああもう、テン。何やってるのよ。。。」

そちらへ駆け寄って、がけにつかまる小さな手を取った。

「まったくもう、足元はちゃんと注意しなさいよ。」

先ほど自分がぼうっとしていたのも棚に上げて、注意する。
力をぐっと込めて、引き上げようとする。途端に、違和感に気づく。

「ちょっと、、、テン?」

「お銀さん、、、なんか僕、おかしい・・・。くるし・・・」

「テン!!!」

関節が、悲鳴を上げるほど、テンの身体が重たい。引き上げられない。
力を込める。全身が軋む。それなのに、手はぴったりとテンの手に付いたように離れなくて。
これは、何だ?
ズルッ、身体が滑った。落ちる・・・!!!

ガシ!!すんでのところで足をつかまれて、私は逆さまにぶら下った。

「バカ!何やってんだ!!」

Diasさんだ。ああ、やっぱり頼もしい。

「なんか、テンの様子が変!っていうか、重い・・・!!」

「確かに・・・!太った?」

「太ってなあああああああいいいい!!!」

危機的状況だというのにのどかな会話。いけないいけない。

「テン、とりあえず早く銀さんの身体を伝って登って来い。そうじゃないと銀さん腕つらいだろ。」

「Diasさん、ちょっとそれ無理かも。テンなんかぐったりしてる。」

「なんでもいいから早く!俺もう腕持たない!!銀さん、テンを崖上に投げられる?」

「無理!!なんか知らないけどテンの身体今すっごい重たいの!!」

あああもう、結局絶体絶命なんじゃないの!!

「待ってて!今ロープを用意してるから!」

上から、エルディさんの声が降ってくる。近くの太い木にでもくくりつけて垂らしてくれるつもりだろう。
助かった。ロープにしがみついたら、みんなが引き上げてくれる。
上を見る。いや、さかさまになっているから、下を見るような形なんだけれど。
自分のへそのあたりが見えて、diasさんがつかんでいる私の足首が見えた。
本当にすんででつかんだみたいで、diasさんは身体を崖の下に下ろして、
崖につかまったまま私の足首を持ってる。diasさんがつかまっている、崖が見えた。。。

あ―――。やべ、これロープ間に合わない。

Diasさんが、力なく笑った。
その途端に、Diasさんのつかまっていた崖がぼこ、と崩れて・・・

私達は今度こそ、まっさかさまに落ちていった。

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

崖上のざわめきが―――、遠く、遠く・・・



       ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ざぶん、と、巨大な水しぶきがあがるのが見えた。下は川だった。運がよければ助かるだろう。
運が悪くても、あいつらは―――旅人、だ。ギリ、と奥歯をかみ締める。

「タウルス隊長・・・捜索隊は・・・?」

「出している余裕は、ない。このまま進軍するぞ。」

「はい・・・。」

軍に、不安が広がるのが見て取れた。くそ―――恨むぞ・・・?
どうやって士気を取り戻したものかと思案していると、突然、Liletiaが叫んだ。

「大丈夫ですよ!!あの3人なら!」

「そうそう、Diasさんなんて殺したって死ななさそうだしね!」

スラアムが続ける

「うんうん、お銀さんなんて、今頃は岸に上がって、『ああ、あげパンが食べたい・・・』なんて言ってるに決まってます!」

「あ、それ後でお銀さんに言っておきますね。」

「あ、たんま、今のなし。」

セシルとヴォルスがじゃれあっている。笑い声が漏れた。
まったく、こいつらときたら。

「ま、しょうがないしね、先、進もう進もう。」

エルディが苦笑しながら言う。Diasが心配だろうに。口にも態度にも出さない。

「ええ、あの3人なら大丈夫ですよ。」

イリヤスが微笑みながら言う。
なんてこった。俺の部下は有能揃いらしい。

「よし!!全軍、前へ進め!隊列を乱すな!!」

俺の号令に、おおおお!と全員が答えた。




           ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「さっきのテン君―――。なんだか、おかしかった。」

ファイラットは、小さくつぶやく。

「まるで、自分から崖に近づいて、落ちたみたいな―――」


ファイラットは、自分を掻き抱く。不安を押さえつけるかのように。

「大丈夫だよね?テン君―――。」


ファイラットの小さなつぶやきは、周囲の声に、かき消された。       


           ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「がぼがぼぐぼ―――げほっがぼぐぼ―――」

鼻から口から水が入ってくる。苦しい。長雨で増水した水は流れが速い。
泥と混じってにごってて、口当たりはとっても最悪。
たまに水面に顔が出るけれど、満足に呼吸ができない。
まだ、テンと手をつないだままだけれど、手の先にいるテンがどうなっているのか判らない。
死ねばヌブールの村へいくだろうから、まだ死んではいないのだろうけど。
ああ、岸に、あともう少しで手が届くのに―――!
流れが速すぎて、つかめない。くそったれ・・・!!

どん!と、身体に何かがぶつかって、その反動で何か壁のようなものにぶつかった。
必死でそれを掴む。懇親の力をこめて、身体を持ち上げる。顔が出た。
私がしがみ付いていたのは、川の中にある苔むした岩だった。ともあれ、息が出来る。助かった。

そのとき視界の端を、何かが通り過ぎて行く。―――!!Diasさんだ!!
Diasさんが、私を岩の方へ体当たりで突き飛ばしてくれたんだ―――!!
手を伸ばそうとするけど間に合わない、
というか、岩を掴んでないほうの手には、テンがしがみ付いてる。
慌てて、テンを岩の上に出した。ぐったりはしているけれど、奇跡的に息はある。

Diasさんは、こぶしを水面の上にぐっと突き出していた。
大丈夫だ?心配するな?先に行け?どうとでもとれる力強いポーズだった。

「Diasさ―――!!」

Diasさんの流れていく先、その先には大きな、滝!


「Diasさああああああああん!!!!」


Diasさんの身体は、滝に飲み込まれて、消えた。



to be continued
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Posted by COLOR NOTE * comments(23) * -

めふー

過去記事に加筆修正を加えました。
生きてます。元気です。
最近はMoEにも顔を出してますよ。
続きを読む >>
Posted by COLOR NOTE * comments(8) * -

決戦前夜 ‐それぞれの場合‐

決起集会は雨の中行われた。
ミクルの眼前、広場に屋根は無い。

けれどもその雨の中、広場は異様な熱気に包まれていた。
ミクルは大きく息を吸い込み、雨の音に負けぬ力強い声を発した。

「諸君!もう既に諸君の耳も聞き及んでと思われるが、ノア・ストーンの突然の暴走により、ビスクの女王、イルミナが死亡した!!そのため、ビスク内部は混乱の渦中にある!今、我らが攻め込むにあたり絶好の機会にある!!」

ミクルは一旦言葉を区切った。
辺りに走る、どよめき。
す、とミクルが手を上げると、次第にそれは収束してゆく。

―――しん、再びの沈黙。雨の音。

ミクルは息を吸い込み、もう一度口を開く。

「この機を逃して我らに勝利は無い!!エルガディンの民よ!!今こそ、ビスクへと攻め入るときだ!!我らの街を取り戻そうではないか!!!」


ォオオオオォォォォオォォォォオオ!!!!!!!!


歓声。歓声。
雨の冷たさに負けぬ熱気は、今やエルガディン王国全体を包み込んでいた。

そうして、雨の中手短に行われた決起集会の後、軍は準備に取り掛かった。
準備に関しては、総攻撃を想定して即座に出来るようにしてあったため、夕方にはほぼ全ての準備が終了していた。

そして、作戦会議終了後、早めに休み明日に備えよとのミクルの達しにより全員が隊舎に戻った。

突撃前夜。それぞれの様子―――。


-イリヤスの場合-

「ふぅ・・・キャプテン、か。」

ぽつり、と呟く。隊舎廊下の窓の横。
今回、イリヤスはwarlordに任命されたタウルスの補佐役として
誰もが適任だと推奨し、captainに任命されることになった。
目を閉じるイリヤスの表情には、何の苦悩も浮かばない。
が・・・その責任の重圧は、本人にしか分からないだろう。
一つ、ため息。

「イリヤス?何してんだこんなとこで」

廊下の暗がりから声がした。

「じゃあシェリアは何を?って聞くまでもないですね」

「あァ。隊長の所へ、ちょっとな」

イリヤスの傍へ来たシェリアの顔を、窓からの月明かりが照らし出す。
青白い月明かりの下に於いても、シェリアの頬はほんのりと赤く染まっていた。
イリヤスはふっ、っと微笑んで言った。

「さっきファイラットも此処を通りかかりました。私に奇妙な質問をしてから食堂の方へ行ったみたいですが」

「奇妙な質問?」

「ええ。ああ、でも内緒にしておいて。って言っていたので内緒にして居たほうがよさそうですね」

「なんだよ、気になるじゃねーか。ま、イイや。後で本人に聞いとくわ」

「いじめるのもほどほどに。しかし・・・私の友人には、おとなしく部屋で待機せずうろつく人が多いようです」

「仕方ないだろ、お前の友人なんだから」

間髪いれずにシェリアが言う。

ぷっ―――

どちらからともなく噴出して、二人は笑った。

「それじゃーな。アタシも隊長に会ったら部屋に戻るけど、あんたもうろついてないで、部屋にもどんなよ」

シェリアはそう言うと、ひらりと手を振って再び歩き始めた。
その背中に…

「ねえ、シェリア。いい加減にそれ、やめたら如何です?」

イリヤスがそう、声をかけるとシェリアの動きがぴたり、と止まる。
首をくるり、とイリヤスに向けなおし―――。

「大きな、お世話ッ」

べ、と舌を出して、もう一度歩き始めた。
其の背中を見送ってからイリヤスは呟く。

「まったく―――素直じゃないんですから。シェリアにせよ、隊長にせよ―――それから、私も、か」

ふぅ、と一つのため息の後、廊下は静寂に包まれた。


―テンの場合―

やっぱり、休めって言われても、興奮して起きちゃうなあ。
眠れない人のために、隊舎の食堂であったかい飲み物配ってるんだって言うから僕もそうしようと思って、食堂の扉をあけた。

中には結構な人がいた。
皆、眠れないんだね。少し、おかしかったよ。

「・・・テン」

うしろから、声をかけられた。
振り向いてみるけど―――。

「・・・テンも、眠れなかったの?」

知らない、子だ。
透き通るような白い肌と、きれいなくりっとした瞳のヒューマン。
――――か、かわいいなあ―――。
でも僕、こんな子に知り合い、いないよ?

でも、この声、どこかで聞いたような気がする―――。
どこでだろう?

「・・・ミルクティあったかい。はい。テンの分」

目の前の女の子はそう言って、僕にマグカップを差し出してくれた。
どぎまぎしながら受け取って、椅子に座る。向かい側には、其の子が

「あ、、、あ、うん。ありがと」

しどろもどろになりながらお礼を言う。
目が合って、其の子は微笑んだ。
僕も笑ったけど、きっと今僕の顔は真っ赤に違いない。

「…ねえ、テン。テンは私が嫌い?」
「え―――僕が、君を?そ・・・そんなこと!!全然ないよ!!」

「・・・よかった」

くすくすと笑いながら、其の子が言う。

「え、えっと、何が?」

「・・・うん。私、ずっとテンに嫌われてるんだと思ってた」

慌てて首を振った。
そもそも―――僕は君が誰だか思い出せないんだ。
其の言葉は言わずに、仕舞っておいたけれど。
ちょっとした、罪悪感。

「・・・そう。なら良かった。私と同い年の子、凄く少ないから」

「・・・あ・・・え?同い年、なんだ?」

「・・・そうよ。知らなかった?」

微笑んで、見つめられるけど、僕は目を合わせる事が出来なくて、少しうつむいた。

「…ねえ。私が誰だか、解る?」


ッ!!?

……や…やっぱり気付かれたんだ…。
僕が、覚えてないこと。
どうしよう。
ごまかす事なんて、出来ないよね…。

「実は・・・その。うん、分からないんだ・・・ごめん」

「・・・正直」

そう言って、其の子は悪戯が成功したときの笑いと、ちょっと寂しそうな笑いを組み合わせたかのような、不思議な表情をしてみせた。

「・・・うん、、、ごめん」

正直、に。言わないほうがよかったの、かなあ・・・?
でも、嘘がばれたときのほうが、よくないだろうなあ。
僕の嘘は直ぐにバレそうだし。

「・・・あーあ。イリヤに聞いたのが間違いだった」

イリヤスさん?なんでイリヤスさんの名前がここで出てくるんだろう?

「イリヤスさんに、何を聞いたの?」

「・・・テンに、本音を聞く方法。私が話そうとすると、いつもテンは逃げるから」

「に・・・逃げたりはしてないと思うよ?」

何かの偶然が重なってそう勘違いしたんだろうけど・・・。
というか、本音を聞く方法に、イリヤスさんは何て応えたんだろう。
聞いてもいいのかな。い、いやそれよりも前に
ため息をついて、うつむいてしまった其の子に何か声をかけるべきか。
悩んで、おろおろしたけど結局何も出てこなくて。

「イリヤスさんは、なんて応えたの?その、本音を聞く方法」

何か、でなんて事聞いてるんだろう、僕。
でも、謝ったりしてもそらぞらしいし、
逃げてないって事をことさらに強調するのも、いい訳じみてるし。
其の子はずっと黙ってたけど、ぽつり、と

「・・・仮面とフードを取ってもう少し大きな声で話せばいいんじゃない?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんて、出鱈目もいいところだった」


仮面、とフード………って、、、まさかまさかまさか?!

「ファ・・・ファイラットさん?!」

彼女は無言で頷き、どこからともなく、仮面とフードを取り出して装着した。

「…じゃーん。」

「全然気づかなかった…。ごめん。」

「…いいの。べつに。気づかれなかったからこそ、テンと話せたし」


仮面で彼女の表情は見えなくて。
けれども僕は、彼女がさびしそうにしているように見えた。

「…私ね、テンが好き。きっとテンは私を嫌いだろうけれど。明日死んでしまうかもしれないから、それだけ伝えようと思って」

「…ま、待ってよ。僕、ファイラットさんのこと嫌いだなんて一言も―――!!」

「…言ってない。でも、分かる。ずっと避けてたもの。それとも、私が美少女だって知ったとたん、テンは私を好きになったの?」

彼女が体を固くして、小さくなって、いるのが分かった。
それを見て―――僕は。
無性に、腹が立ったんだ。

「僕は、君の事を嫌いだなんて思ったこと無い。僕は、君がずっと苦手だっただけだ」

僕は、跳ね除けるように言う。
僕の冷たい言い方に、ファイラットさんは息を呑んで、
気をつけていなければ分からないくらいい小さくびくり、と震えた。
僕は彼女のこんな一面でさえ、知らなかったんだよ。

「君のその仮面の下も見たことは無かったし、君の気持ちだって全く知らなかったんだ。それって、好きとか嫌い以前の問題だよ!」

強めに言ってしまってから、気づく。
震えてた。ファイラットさんはおびえてたのに。
僕、凄く酷い事、言っちゃったんじゃ…?
彼女は固まったまま、身動き一つしない。

「あ、あああぁぁ、、あのさ、だからさ…」

僕は途端にしどろもどろになりながら、言い訳のようになんとかフォローをしようとする。
でもなんて言ったらいいんだろう。
思いつくはずもない。だって・・・。
僕は、彼女のことを、何も知らないんだから。
そこまで考えた所で、僕の口から、意外な言葉が飛び出た。

「だからさ、君の事をもっと教えてよ」

自分言っておいて、思いがけない言葉だった。
無意識のうちに口から飛び出したけど、うん。
納得だ。知らないんだから聞けばいいんだ。

「え―――?」

「教えてよ、君の事」

僕はもう一度言った
彼女は口を半開きにしたまんま、しばらくぽかん、としていたけど―――
やがて、小さくこくん、と頷いた。


―タウルスの場合―

俺は本当は―――何も考えたくは無いのだろう。
全て、とっくに覚悟は済んでいる。

けれど、考えて、それが揺らぐことを恐れているのだ。

考えただけで、揺らぐような易い覚悟はしていないつもりだった。
だが全ては絶対ではない。絶対などというものは存在しない。
だから、俺はきっと本当は考えたくは無いのだ。
けれど、考えてしまう。
眠りについたなら、何を考えることもなく明日が来るはずだ。
だが、考えすぎていて、眠れないのだ。
己を苛ます矛盾に、イラつきながら俺は隊舎の廊下を歩く。

俺は―――。


―――そのとき、目の前の光景が突如消えて、暗闇に包まれた。
目の周りに、柔らかな感触。

「―――シェリアか。」

「ええ。結構前から気づいてらしたんでしょう?」

そう、シェリアが俺の後からついてくるのは気づいていた。
いつものことなので、さほど気にはしていなかったが。
大柄なパンデモスであるシェリアは、俺よりも頭半分ほど高い背丈だ。
後ろから手で目を隠すなんて、造作も無いことだろう。

「何の用だ。」

「隊長をストーキングしている途中で、少し悪戯心にかられただけですわ。」

まったく―――。
ゆっくりとシェリアが俺の目から手を外す。
俺は、振り向かないままに、問う。

シェリアが俺の後をつけている事に、俺は随分前から気付いていた。

「何の用だ?」

「別に何も。隊長ストーキングに少し飽きたから、悪戯してみたただけですわ。」

はあぁ…俺は盛大にため息をついた。

「なあ、そろそろやめないか?」

「何を、ですの?」

「…俺を好きなフリ、か?」

「あら、ずいぶんな事をおっしゃるのね。私がこんなに愛しているのに」

俺は、苦笑せざるを得なかった。胸に広がる、小さな黒い靄。
イラ付く。思い出したくない事を封じようとしているのに、自分の思い通りにならないもどかしさ。
頼むから…俺を、かき乱すな。

「俺は、お前を知っていた」

「…どういう、意味ですの?私は七番隊の人間ですわ。知らないほうが、おかしくありません?」

「・・・・俺は、ビスクにいた頃から・・・お前を知っていた。ちらりと一度見ただけだが」

しばしの、沈黙。
やがてふう、と観念したようなため息が、後頭部に降って来た。

「メルリア?それとも、ノイエ?」

「メルリアだ。あいつは気に入った人間を片っ端から俺に自慢していた」

「私もよく、自慢されましたわ。貴方の事。自慢の兄さんだって」

「そうか?そんな可愛い事、俺の前で言わなかったぜ」

「本人の前では恥ずかしくて言えなかったんですわ。あの子、そういう子でしたもの」

「そうか…」

思い返せば、憎まれ口ばかり叩く可愛いげのない妹だった。
けれど、俺はそんな妹を、可愛がっていたのだと思う。
だから…。今もこの胸から怒りが消え去らない。
「言っておきますけど、彼女達をエルガディン亡命へ唆したの、私ではありませんよ?」

「…」

「敵国内でわざわざぼろを出すことなんて致しません。こう見えても私、職務に忠実ですの」

「スパイ、か…」

「ええ」

背後にいるシェリアの表情は見えず、受け答えも淡々としていて、
俺は感情を読み取る事が、出来なかった。
俺は一体、何をしようとしているんだ?
思い出すべきでないと封印した事に自ら触れて紐解こうとしている。
俺は、何がしたいんだ?

「何故、お前は、俺にまとわり付く?監視がお前の今の任務か?」

坂を転がりだしたボールのように、俺は俺自身を止められない。
あるいは、止まってなど居なかったのかもしれない。最初から。

「いいえ。あの日の前日、ノイエが私に『私に何かあったときには、タウルスをよろしくね。』と。私、呆れたんですの。だってそのとき、私貴方の顔も知りませんでしたのよ?それに、数日後には情報をもってエルガディンに帰還する予定でしたし。でも・・・」

シェリアは、一度ごくり、とつばを飲み下した。そして続ける。

「貴方の容姿を知ったのは、貴方がノイエの亡骸を抱えてビスクの城門をくぐったときに。遠くからでしたけれど、それでも分かるほど、貴方は憔悴していて。私は胸が痛みましたわ。次に見たのは、数週間後、帰還したエルガディンで。貴方の顔はぎらぎらと烈しい復讐心に支配されていて、私の胸は締め付けられた。たった二回。その、たった二回で私は貴方に惹きつけられた。まるで色を知らない小娘のように、貴方に恋をしてしまったんですの。おかしいでしょう?」

シェリアは、自嘲気味に、笑う。

「私が監視役だなんて、とんでもない。貴方は貴方が思っているよりも、エルガディンに信頼されているのよ」

「すまない・・・」

・・・気づいては、いたんだろう。
彼女が俺の前でだけ口調を変えるのは、大人しいフリをしているんじゃなく、
皆の前で、ぶっきらぼうなフリをしているのだと言うことに。
俺の前でだけ、素顔を晒しているのだと、頭のどこかで、気づいてはいた。
けれど、それに気づいてはいけなかったんだ。
でなければ―――

「お前に、夢を見てしまいそうだった」

「夢くらい、見たっていいでしょう?こんな、世の中ですもの」

「ダメだ」

この罪に塗れた手で、どうやって人を抱けと言うのか。
誰に許されないのでもない。俺が、俺自身を一番許せない。

「そうして、頑ななのは、誰の為だって言うんですの?貴方は罪に溺れても、決して自分から誰かに手を伸ばそうとはなさらないのね。少しは自分を、省みようとは思わないんですの?」

「省みて、いるさ・・・」

「嘘よ。貴方が省みているのは、自らの責任に於いてだけでしょう?貴方は簡単に、自分を蔑ろにすることの出来ない立場に居らっしゃるもの。だからではないの?貴方を心配して、差し出される手になんか見向きもして下さらないの。貴方は、自分の罪・・・ううん、自らが罪だと思うものに溺れて、何も見てはいないんですわ」

「・・・」

「結局は、見えていないんでしょう?自分も、他人も」

するり、とシェリアの両手が絡みつく。柔らかな身体が、そっと俺を抱きしめた。
シェリアは俺の後頭部に頬を摺り寄せた。

「私は、ここにいるわ・・・」

俺は、俺を抱くその手に、手を伸ばしかけて、やめた。

「一つだけ、聞いていいか?」

「何ですの・・・?」

「スパイだったなら知っているだろう。ノイエを殺したのは、誰だ?」

どんっ。
強く、突き飛ばされる。
俺は、くるり、と振り返った。
目に泪を溜めたシェリアが、俺を睨んでいた。

「貴方は!それを私に聞くんですのね・・・!!」

「ああ。答えたくないなら、答えなくていい」

くるり。と俺は踵を返す。答えを、求めて質問してはいなかった。
確かに、俺はひどい人間だ。俺は、自分自身も、許せない
。そして、他の誰一人として許すことが出来ない。
だから、願わくば俺を嫌ってくれ。
そのまま歩き去ろうとしたとき、俺は聞いた。

「テルダー。テルダー=シュタイナー。」

其の言葉に、俺はぐ、と拳を握り締め、目を閉じた。


―ファイラットの場合―

隊舎の、自分の部屋の中。ファイラットは着替えながら、先ほどのテンとの会話を反芻していた。

「教えてよ。君の事」

テンがそう言ったとき、ファイラットは酷く驚いていた。
目を見開いたまま、固まっているファイラットに向かって、テンはしどろもどろに切り出す。

「え、ええとさ。ファイラットさんは何で僕が好きなの?」

其の質問に、ファイラットはゆっくりと口を開く。

「貴方が、運命に翻弄されていないような気がして。」

「運命?」

「うん、私ね。お父さんとお母さんと借金で首が回らなくなって、夜逃げしてね、この島にたどり着いたの」

ぽつり、ぽつりと小さく語り始める。

「その後、お父さんもお母さんも、ビスクのちょっとした小競り合いみたいな内紛に巻き込まれて死んじゃった。それから、マブ教に入ったの。」

「マブ教に?」

「うん、マブ教は、復讐を許容している神だから。」

「ビスクに、復讐する為?」

テンの問いに、ファイラットは静かに首を振る。

「運命に、かな。私はね、私をどうしようもなくこの島に導いた、運命ってものに復讐してやりたいんだと思う。だからかな。テンは運命に翻弄されていないような気がして、惹かれたの。」

・・・馬鹿にされるかな、とファイラットは思った。
運命に復讐したい、という自分の願いが、どれだけ馬鹿馬鹿しいものか、ファイラット自身が感じていたのである。
しかし、続くテンの言葉は、ファイラットにとって意外な言葉だった。

「うーん、運命に復讐か。出来そう?」

「え・・・?ううん、わからないわ・・・」

「そっかー。どうしたらいいんだろうね」

「…馬鹿に、しないの?」

「馬鹿に?しないよ?僕は、何かを馬鹿にする、とかそういうのよくわからないしね。それに、方法は僕も分からないけれど、運命に復讐する方法は、なんだかどっかにありそうな気がするよ」

どこかに、ありそう・・・。
ファイラットにそんな言葉をかけた人間は。今まで誰一人としていなかった。
その言葉は、ファイラットの胸を熱くさせた。

ファイラットには未練が出来た。
彼ともっと話がしたい。
彼のことをもっと知りたい。
彼に、もっと知っって欲しい。
出来ることなら、好かれたかった。

明日もし、自分が死ぬ運命だとしたら、私はその運命をぶち壊してこんどこそ復讐を果たすのだ。
ファイラットはそう心に決めて、ベッドの中へもぐりこんだ。



―Diasとエルディの場合―

「ここに、居たんだ」

隊舎の屋根裏倉庫。ぽつんとある小さな窓の傍に。Diasはたたずんでいた。
Diasが振り返ると、暗がりの中で、うっすらと月明かりに浮かぶ、エルディの姿があった。

「ああ、なんとなく、な」

この屋根裏倉庫の窓は、もしビスク軍が攻めてきた時のために、狙撃兵が待機するポイントのひとつとなっていた。

「ふぅん」

エルディはうなずきながら、その場に座る。そして、Diasに向かって何かを放り投げた。
ぱしっ。Diasがそれを受け取って眺める。

「ワインかよ・・・」

「うん、飲むでしょ?」

エルディの問いに、Diasはにやり、と微笑んだ。

「当然」

どこからともなく取り出したグラスにワインを注ぎ、二人は乾杯した。
きん、という心地よい音が響く。
こくり、と嚥下するさえ響くような静寂のなか、二人は静かにワイングラスを傾けた。

「ねえ。」

エルディが、小さくつぶやく。

「なんだ?」

「明日、死なないようね。」

「俺ら旅人だから死なないし。」

「それもそうだね。」

再び訪れる静寂に包まれて、月を肴に二人はワインを楽しんだ。
静かに静かに、夜は更けていく―――


―スラアムとkaiとヴォルスとセレナリアとシルメリアの場合―

隊舎食堂にて

「さっきそこで、テン君とファイちゃんがいい雰囲気だったわね。」

「え、二人ってそういう関係だったんですか?」

「いいですよね。私の友達も、好きな人に告白するんだって言ってました。」

「いよいよ明日が決戦ですから。そんな雰囲気になるのかもしれませんね。」

「テン君も隅におけないなあ。」

「そういうkaiさんは好きな人いないんですか?」

「い、いや?!そういうヴォルスさんこそ!?」

「内緒です」

「じゃ、じゃあ僕だって―――」

「うふふ。kaiさんの好きな人はね、"ね"」

「ちょおおおっと待ったあああ?!」

がやがや、わいわいと。
眠れない者達が集い集まって。
賑やかに賑やかに、夜は更けて―――。


―SilverNoteの場合―

高揚する気分を抑える為、私はお気に入りの場所に足を向けた。
こんな時は、喧騒よりも静寂に浸りたい。
興奮する身体を冷ますには、ひとりでぶらぶらするのがぴったりだった。
てくりてくりと歩いて、お気に入りの場所へと、たどり着く・・・。が。

いつもは誰も来ない、隊舎の袋小路の一角に、先客が居た。
窓の外を眺める、大柄な白いローブの人間。
私は、彼を知っているはずだった。
けれど、私の目の前の人間は、まるで別人かのような威圧感を放っていた。
私がそこに立ちすくんでいると、影が突然振り返った。

「ああ、SilverNoteさんでしたか。こんばんわ。」

「こんばんは、ザイオン・・・さん。」

ふっ、と。威圧感はまるで嘘のように消えた。
目の前には、ただやさしく微笑むザイオンが、こちらを向いて立っているだけ。

「今夜は月がとても綺麗ですよ。ほら。」

キィ、と窓を手で押し開け、ザイオンは私に外を見るよう促した。
空を見れば、少し掛けた月に薄雲がかかって幻想的な風景を生み出していた。

先ほどの、ザイオンはなんだったのだろう。
喉さえ締め付けられるような威圧感を放つ、私はそんな人間を知らない。

恐怖と好奇心にかられて、私は思わず聞いた。

「ザイオンさん、貴方一体、何者?」

ザイオンは、私の顔をしばしじっと見つめていたが、やがて、ニヤリ、と笑った。
それはおよそ似つかわしくないのに、これ以上なく似つかわしい。

「俺の名前が知りたいか?SilverNote」

ッ…。
私は、聞いたことを後悔した。
先ほどとは比べ物にならないほどの威圧感。
腹の中から恐怖が溢れて、締め付けられた喉の奥側で暴れている。
思わず武器に手が伸びかけた―――。その時。

「ぷっ・・・。くくく、、、あははは。冗談、冗談ですよ。ごめんなさい。」

「え?」

「ちょっと驚かせようと思って演技をしたんですが、いやあ。SilverNoteさんは、ノリやすい方なんですね。本当にすみません。」

目の前で、にっこりと微笑んで見せたザイオンからは先ほどの威圧感など綺麗さっぱりと消え去っていた。

「私はもう、行きます。夜更かしは美容にも健康にもよくありません。明日にも響きますし、早めにやすみましょう。それでは、おやすみなさい。」

ザイオンは、私の肩をぽんぽん、と叩き、歩いて私の横を通り過ぎる。
背後の足跡が、次第に遠ざかっていく。
私はその場に固まったまま、しばらく動けないで居た。
くるり、後ろを振り返ったとき、ザイオンはもう既に、そこにはいなかった。

「なんだったの・・・あれ・・・。」

つぶやきは空しく、宙に解けて消えた。


―Liletiaの場合―

「はっ・・・くしょん!ずずー・・・」

隊舎の屋根の上。Liletiaは一つくしゃみをした。
ごしごし、と両手で身体を擦って暖める。
湿った生ぬるい風が吹いているが、それは時に、冷たい風よりも背筋をぞくぞくとさせる。

「ううん、早くしないと風引いちゃうな。……うん。やるぞ、おし♪」

すっく、と立ち上がったLiletiaの足には、下駄が装備されていた。

「これを、出来るだけ遠くまで蹴り上げればいいんだよね。」

どこか捻じ曲がって伝わった、晴れを願うおまじない。
Liletiaはそれを、固く信じていた。
滅多に降らない雨が上がった後とはいえ、まだ空にかかる薄雲が、湿った空気を運んでいる。
万が一にも、雨が降ることのないように、Liletiaは晴れを願った。
そして、不安や恐怖を抱えた人の心も晴れるようにと、願いをこめて。
おまじないの言葉は―――

「あーした、天気に、なーあれ!!」

びゅーん!

蹴り上げられた下駄は、勢い良く空へと突き進み・・・。
丁度雲の切れ間からのぞいた月に、一瞬だけシルエットを浮かべて、消えた。



to be continued.

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生存報告

お久しぶりです。生きてます。からりです。

えっと、かなり長いこと間が開いてしまったので、生存報告。
やばいぐらい更新してないなー。

でも一応、書いてるのです。
ちゃんと書いてはいるのです。

が、しかし・・・・



長いッ!!


長すぎるッ!!
区切りの付け所がなくて、がんがん書いてるのですが、長くて終わりが見えそうにない。
むしろ、普段の二話〜三話分位の長さになる予定。
あと最近MoEやってないせいで色々忘れてて少々こまりものなのです(だったらインしろと。)

と、いうわけでもうしばらくかかりそうですが、待たなくていいので、更新された際にもし気づいたり気づかなかったりしたら、見たり見なかったりしてやってください(何

しょんじゃば!
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涙雨と −嬉し涙も恥かし涙も−

「雨、止まないなぁ…。」

エルディは廊下の窓の外を見て呟いた。
しとしとしと。降り続く雨。
乾燥したネオク地域での珍しい、出来事。

「涙雨、かな?」

だれかが泣くと雨が降る。
エルディは、硝子に映る水滴を見つめて言った。
まるで、大空が泣いているかのような、激しい雨だった。



一方、隊舎食堂にて――――。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「んふふふふ…ふふっ…んウフフフフ…」

堪えようとしても後から後から笑いが零れ出る。

「ね。。。お銀さん今日は何かいい事あったのかな?」

「いい事があったって言うよりあれはどこかにイッちゃってる目と笑いだけどね…」

後ろでそんな会話が聞こえるけど上機嫌な私は気にもとめない。
チャキ―――。私は目の高さまで手にしたカタナをかかげた。
銀に青紫を薄く混ぜたような澄んだ輝きを放つ刀身。うっとりと眺める。

私は別に刃物マニアな訳じゃないけどこれは別だ。

「お銀さん、嬉しそうですね。」

にこにこと微笑みながら私に話しかけるのは、ニューターの女性であるセシルさん。
うちの隊に最近配属された人で、SRFの新メンバーでもある。
可憐な花のように微笑む瞳の奥には、淑やかさよりも鋭い知性が伺える。

「いいなーお銀さん、ちょっとうらやましいです。」

同じくにこにこと微笑みながら同意したのは、同じく新メンバーのkaiさん。
テンより少し年上な彼は、戦の只中にあっても素直さを失わない純朴な青年だ。
素直なゆえに見ていて少し危なっかしいと想うこともある。
でも、この素直さだけは潰えないで欲しいと切に想う。
そんなことを考えながら私は調子にのり過ぎた自分の気持ちを静め、頭を掻いて笑った。

「あは、ごめんごめん。ちょっとうかれ過ぎてた。」

「い…いや、そんなつもりじゃ!」

慌てたように手を振って私の言葉を否定するkaiさん
顔まで真っ赤にしてしどろもどろになりながら否定する姿はかわいらしい。
男の子に向けて使うホメ言葉じゃないかもしれないけど、とにかくかわいいのだ。

「いや、ほら俺もそんな凄いカタナを作ってもらえたらなーとか、ほら、Zenalさんの打つ武器って凄いじゃないですか!だからその、えーっと・・・。」

くすくすくす、、、くっくっく、、、。
私とセシルさんの笑いの中で、kaiさんはしどろもどろになりながら弁明をする。
素直で誠実で純朴で…からかいがいがあって、なかなかよろしい。
笑いながら私は浮かれの原因であるカタナを私は静かに鞘におさめた。
この刀は私の愛刀の制作者であるZenal氏が私に作ってくれたもの。
それだけならばまだこんな怪しい笑みは出なかったかもしれない。
が、しかしこれはなんと…”ミスリル”製のカタナなのである!
ダイアロスの中でも希少なこの鉱石を使った武器は珍しい。
ミスリル製の武器は武器使いにとっての憧れとも言うべきものなのだ!

「あれ・・・?そういえばお銀さん、ワキザシもいつもと違いませんか?」

セシルさんがふと気づいたように言った。

「あ、言われて見れば。もしかしてそれもZenalさんが?」

セシルさんの発言に、kaiさんも私の腰に挿した武器に目をやる。
二人にも見やすいように、私はもう一振りの刀を腰からはずす。

「ンフフウフフ・・・。そう。これもZenalさんの打った刀。」

鞘からするり、と出して掲げて見せてあげる。
寸はカタナよりやや短め。互の目の刃紋にの銘入り。
刀身は"ソウルオブヤマト"で磨き込まれた渋い色合いを醸している。

この刀の名はムサシ。

この寸足らずな刀では間合いも短く主力武器としては弱い。
けれど。それはあくまで主力武器として使った場合だ。

サムライの極意は二刀流。
この名刀ムサシを左の手にした時、その長さは追撃に使ってよし牽制に使ってよしと隙は無し。更に樋も入れていないというのに、軽く振りぬきやすく、まさに無敵。

ムサシはまるでサムライの為にでも作られたかのような完璧な武器なのである。
私にとっての憧れとも言うべき武器が二つも揃ったんだ。
これが笑わずにいられるものか!!

偶然で手に入れた十にも満たない鉱石を渡しただけで、
それより多くのミスリルを使った武器を作ってもらえるなんて・・・
最初は恐縮したものだけど上手く丸め込まれて渡されてしまった。

……

丸め込まれなきゃよかったかな…。
なんで私、こんな高価なものほいほいと受け取っちゃったんだろう…

「(ひそひそ)お銀さんさっきまで笑ってたのに、今度いきなり黙っちゃいましたよ。。。?」

「(ひそひそ)放っておけ、目を合わすんじゃないよ。」

うしろで失礼なヒソヒソ声が聞えるけどあえて無視。
はぁー…。と深いため息をついて、眉間に指をぐりぐりと押し当てた。
考えてもみろ、あの場は受け取る事しか出来なかったじゃないか。

『俺の打った刀が受け取れないとでも言うつもりか―――?』

うわ、恐っ!
今思い出してもあまりの恐怖に身震いする。
私の手の中の刀は、今妙に重さを増した気がした。

「お銀さん・・・?」

心配そうに私を覗き込むkaiさんに、私は苦味の混じった微笑を向けた。

「だいじょーぶ。こんな高価なもの貰っちゃってなんかいまさらながらに後悔してきちゃって・・・。」

ぱたりぱたりと手を振って情けなく笑う私。
我ながら呆れるばかりの貧乏性だ。
とほほ、とうなだれた私の頭に柔らかな感触。
人の手だ、と気付いた私はふっと振り返る。

「シルメリアさん…」

振り返ると、やさしい微笑みを浮かべた一人の女性がたたずんでいた。
SilmeriaVさん―――通称シルメリアさんは、私の目を見つめて言った。

「いいんですよ、それは。お祝いですから。」

「お祝い―――。」

そう。そうだった。
私にこの間までかかっていたスパイ容疑は嘘のように晴れ、今では監視の目もない。
この間の貯水池での騒ぎ。その時監視役を務めていたのは、熱血漢と噂の第3小隊副隊長。
私のあの時の行動に、いたく感動したらしく、

「彼女はエルガディンの鑑だ!!」

とかなんとか、大げさに吹聴して回っていた。
まあ、中には「演技だろ。」とか「ヴァイトに金を払って口裏を合わせた」だの
そういう声が無かったわけじゃない。

でも、私への監視は結構厳しく、そんな打ち合わせが出来る状態ではなかったし、
貯水池へのガード、クリストフが、私が貯水池に来たのはスパイ容疑がかかってからはあのときが初めてだと証明してくれたし、
何より、

「いいや!あれは演技なんかで出来るものではない!正真正銘の『漢』の目だった!」

と主張する第3小隊副隊長(・・・漢って・・・。)の発言と、

「アレはそんな小細工が出来るほど頭がよくない。」

という、第7小隊、第9小隊の皆の必死のフォローにより・・・(どうせ・・・馬鹿ですよ・・・)
とうとう、軍隊の私への疑いが払拭された。
思わず、泣いてしまう程うれしかった・・・

本当の意味で、疑いが晴れたのは・・・
あまりの嬉しさの号泣を大勢の人に目撃されたからかもしれない・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・。


「お銀さん!?ちょっとなんで泣き顔!?」

「お銀さん!?とりあえずちょっと落ち着いて!?」

慌てるセシルさんとkaiさんの横で、シルメリアさんはふふふと笑い・・・

「まあまあ、お銀さん、これでも食べて。私からのお祝い」

紙袋を、とんっと私に突き出した。
ぐす・・・。鼻を鳴らしながら受け取ると袋の中には―――

ほんのり温かな、揚げパンひとつ。

「あ、ありがとう!いただきます!」

大好物の、においは泪さえも引っ込めさせて。
美味しさに、情けなさも、嬉しさも、溶かしてしまおう。
私は揚げパンを取り出すと、齧る。
じゅわっ。甘い香り。口いっぱいに広がる。

「おいしー・・・♪」

上機嫌になった私を、kaiさんもセシルさんも、ほっとした目で見つめてくれた。
シルメリアさんは、くすり、と笑い―――

ばたん!!
食堂のドアが勢い良く開かれ、私は思わず喉を詰まらせそうになる。
其処にいたのは、イリヤスさんだった。

「師匠―――?」

ぽつり、シルメリアさんが呟く。
イリヤスさんは、緊迫した口調で告げた。

「総員、20分以内に中央広場に集合せよ!こちらはミクル様よりの収集命令である!繰り返す。総員、20分以内に中央広場に集合せよ!」

その場に居た、全員が揃って立ち、敬礼する。

『っは!!』

私は、敬礼をしながら考える。
伝令は、軍全体に――?
一体、何が起こったんだろう・・・・。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



その、20分前―――。

「イルミナ城が謎の爆発により消失―――か。」

「叩くなら、今しかない、というわけですね―――。」

その部屋には、ミクルとウォルフガングのほかに、何故かザイオンまでが居た。

「謎の爆発は、明確ではありませんが、消えたノア・ストーンと無関係では無い筈です。」

ザイオンが、そう発言する。
イルミナ城の事を伝えたのは、ほかならぬザイオンであった。

「ふむ―――。」

ミクルは、少し考えるように頷く。

「イルミナが城の爆発と共にどうなったかは知らないが、跡形もなくなってしまったのであれば、死んでいる可能性の方が高いだろう。」

「そう、なります。ですが、ビスクにはアクセルが居ります。彼に時間を与えてはいけません。」

ウォルフガングが、真剣な瞳で言う。

「イルミナが居なくなれば、分裂したビスク軍は一つにまとまると言ってよいでしょう。
しばらくは混乱が続くとは思いますが、時間を与えればアクセルは力をつけてしまいます。」

「だが―――イルミナ城を消し去ってしまうほどの力について、明確な答えが無い。然し、我々の総勢力をぶつけなければ、ビスクは落とせない。もし、ビスク迄進軍しあの力を我々が受けたなら?敗北は確実だ。」

「いえ―――ノア・ストーンを奪ったのがイーゴだとするならば、彼はもう、目的を果たしたと言っていいでしょう。ノア・ストーンを手に入れるために、イーゴはビスク軍を襲っていたのです。エルガディン軍を襲ったあの一件はおそらく、エルガディンがノア・ストーンを手に入れるのを防ぐための牽制だったと思われます。これ以上、エルガディンに危害を加える必要性はない筈です。」

眉間に皺を寄せて言うミクルに、ザイオンが真剣な瞳で返す。
しかし、ミクルの眉間の皺は、一層深く刻まれて。

「だが、もし、アクセルとイーゴが繋がっていたなら―――?」

その言葉に、ウォルフガングが毅然とした態度で応えた。

「アクセルはそこまで、卑怯でも器用でもありませんよ。それに、もし万が一そうだったとしても、直ぐ全軍を揃え、一気に攻め込みビスクを戦場にしてしまえば、たとえ大きな力と言えど、身動きが取れないはずです。」

イルミナ城が消滅するほどの力。
それを自軍の拠点で爆発させるような、馬鹿はいないだろう。
ミクルは、深く息を吐いた。

「分かった。全軍を以ってビスクに攻め入る!私も出陣しよう!」

決意を固めた目でミクルが告げると、慌てたようのウォルフガングとザイオンが止めに入った。

「ミクル様がこちらを離れたら、誰が病床のキング・オラージュをお守りするのですか?!」

「ミクル様、貴方をみすみす危険な地に赴かせる事は、私の弓に誓って出来ないことです。」

あわてた二人を、ミクルはまるでにらむように見つめる。

「ビスクの兵に比べ、こちらは圧倒的に人員が不足している。最終決戦に、総大将が出て行かずにどうする!!」

はぁ、っとザイオンが、諦めたようにため息をついた。

「―――私の私兵をお貸ししましょう。軍と呼べるほどたいしたものでは御座いませんが、少数精鋭を選りすぐってあります。」

―――。
沈黙が、その場を支配した。
誰かが、ごくり。と。生唾を飲み込む音が聞えた。
おそる、おそる。打ち破ったのは、ウォルフガングだった。

「ザイオン殿―――。あなたは、一体―。」

「それ以上は、何も聞くな。」

ぴしゃり、さえぎるようにザイオンが言い放つ。
ザイオンはまるで今までとは打って変わって、優しげな印象は薄れ、
獰猛な獣のようなオーラまでが漂ってくるようだった。
ウォルフガングは、その瞳に気圧されたように押し黙る。
今度は、ミクルが口を開いた。

「しかしザイオン殿、いいのか?貴方はエルガディン軍ではない。」

ふわ、と音がしたかのように。
獰猛な獣のように見えたオーラが消え、ザイオンに優しげな印象が戻る。
一瞬前のことが、まるで嘘だったかのように。
ウォルフガングは息を呑んだ。

「ええ、ですが・・・。私はイーノス様の伝言どおり、絹の薔薇を手がかりに、こちらの軍へたどり着きました。イーノス様は私に、こちらの軍へ味方せよと仰っているのかもしれません。それから―――。」

ザイオンは、此処で一旦区切ると、微笑んだ。
少し、打算的な微笑だった。

「この戦争が終わったならば、イーノス様と、イーゴの捜索に、どうか力をお貸しいただきたいのです。」

ミクルは、ザイオンの思惑を知り、納得したように頷いた。

「イーゴの存在は、確かに我々にとっても脅威である。よろこんで協力しよう。」

そして高らかに宣言した。





「エルガディン軍は、全力を以ってビスクに攻め込む!そのために30分後、士気を上げるための決起集会を行う!!総員を中央広場に集めよ!!」



歴史的な瞬間まで。あと72時間。





to be continued.

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忙殺

はい、ColorNoteです。
小説の更新をお待ちの皆様。もしいらっしゃるとすれば、ごめんなさい。
忙しいのと、スランプなのとで・・・今回のお話は更新をするのに大分時間がかかってしまいそうなのです。
ですので、しばらく更新をお休みします。;
大分休んでおきながらいまさら何をって感じですが(汗

ですが、約束します。
このまま終わらせず、ちゃんと書いて完結させます。
誓います。

なので、もうしばらく私に時間をくださいね。
でわでわ。
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歴史が動いた日 -女王の最期-

カッカッカッ。
磨き抜かれた床の上を、滑るように歩く音が聞こえる。

―――来たか。

私は組んでいた足を解いて玉座に丁寧に座り直し、立て掛けておいた杖を手に持った。
かちゃかちゃと鎧の擦れる音がする。
狼藉者のやって来る音だ。
しかし、誰も止めない。止めようがない、というのが正解か。
何故ならば…。武装したままで此処の廊下を臆しもせず歩いて来られるのは―――

ばたん!突然扉が開かれた。

「イルミナ、貴様何を考えている?」

そして私を”陛下”でも”イルミナ様”でもなく呼び捨てで呼び、
挨拶も無しに質問だけを述べる事が出来るのは―――この男しか居ないからである。

「口を慎みなさいアクセル・キール。陛下の御前ですよ。」

アクセルの後ろから更に声がかかる。
白いローブの女性…ミストだ。
アクセルは一瞬だけ眉を潜め、ミストに向き直る。

「失礼した。では、大神官ミスト。昨日の騒ぎについて知っている事があれば教えて貰おうか。」

鷹のような瞳でアクセルはミストを見据えた。
しかしミストはさらりと視線を受け流し、澄ました顔で応える。

「先ずは陛下にご挨拶が先ではございませんか?」

もう、ミストったら楽しんでるわね?
目を合わすとミストはほんの少し微笑んだ。
私の固く強張った身体がほんの少し、緩んだ。
アクセルはふん、と鼻を鳴らして私の方へ向き直る。

「らしいが……女王。貴様は私に”本日もご機嫌麗しゅう”だのと挨拶をして欲しいのか?」

私は堪え切れずクスリ、と笑いを一つ零した。

「良いでしょう。昨日の事ですね?何が知りたいのです?」

答えられる事は数少なく、また例え答えたとしても理解は出来ないだろうが。

「まどろっこしいのは私も好きではない。普段引きこもり、表にでないお前がなぜ昨日に限り外に出たのか。あのエルガディンの大群は何だ?エルガディンの王に伝えさせた”挑戦”とは何だ!」

昨日の事はとても正確に伝えられたらしい。
或いは、アクセルも何処かで見ていたのか。

「昨日私はどうしてもあれを止めねばならなかった。そして向こうも私に止められるためにあれを差し向けた。最後のは私が語るべきでは無い事。わたくしが語れるのはここまで。わかったのなら下がりなさい。祈りの時間です。」

やはりな、とでも言いたげにアクセルは私を睨む。
私が問いに答えないのを理解していたのだろう。
ふぅ、私はため息を一つ。窓の外に視線を移した。
まだ、わからないのですか?貴方の敵は私では無い事に。

「では最後に問おう。イルミナ、貴様一体何を企んでいる?」

「一体わたくしは何を企めばよいのでしょうね」

窓の外に視線を移したまま、はぐらかすように質問を返した。

「ふざけているのか?」

そう問い返すアクセルの声には怒りも嘲りもない。

「わたくしがふざけている、そう思いますか?」

ただ私の少ない言葉から何かを読み取らんとしている。

「フン…貴様が此処を進攻すると決めた目的、それすら今は曖昧だ。何の為に貴様はダイアロスにやってきた?一体何を求めている?」

この男は聡明だ。ただ、聡明だからこそ私には滑稽に見えるのである。
アクセルの知りたい事は"私の求める物はビスクを脅かすものか?"ということ。
そう、この男が見ているのはあくまでもビスクという小さな器だけ。
例え世界全てを脅かす大きな存在が現れたとて、ビスクを脅かす存在としてただそれを排除する為に動くだけ。

しかしそれでは駄目だ・・・駄目なのだ。

「何故いまさら、それをわたくしに問うのです?」

言うべき答えも見つからず、私は問いを重ねる。
しかし私はその答えを知っている気がした。

「俺の勘が告げている。貴様の企みが近々成就すると。」

もしそうなら今、私の心はどんなに安らかでしょうか。

「もしくはその企み達せず貴様は死ぬやもしれぬ。どちらにせよ、問い質すのは今しかないと思った。違うか?」

そうね、それだけは正解。
けれど・・・

「わたくしが答えない事を知っているのでしょう?」

窓の外へ、視線を泳がせたまま答える。
本当に。聡明かつ愚直、誠実にして残酷な男だ。
けれど私が女王でも魔女なく、ただの小娘であったなら。
私はアクセルに憧れか淡い恋心でも抱いていたかもしれない。
そう考えて、そんな事を思う余裕があった事が可笑しくて、クスと笑みを零した。

それに―――。

小娘というには歳を取りすぎているわね。

今度は苦笑した。
私は立ち上がり、窓の側に寄る。カツリカツリと靴音。
少しの衣擦れの音。それ以外はすべて沈黙を保つ。
ミストはいつも通り、アクセルはなにかを探るように。

窓にこつり、額をぶつける。
今日来るとは限らない。けれど・・・。
私は、窓の外をじっと見つめた。

すると、まるで胡麻のような黒い点が宙に浮いているのが見えた。
そしてそれは次第に近づいてくる。

来たか―――!
本当の意味での狼藉者が!!

拳を握り締め、覚悟を決めるのは、一瞬。

くるり、振り向く。
そしてアクセルをひと睨みして言った。

「アクセル、まだいたのですか?祈りの時間です、下がってよろしい。」

「何だと―――?」


私を睨み返し何かを言おうとしたアクセルを遮り、私は今度はミストに向き直る。
突然私の態度が変ったことで、アクセルのみならずミストにも多少の動揺を呼んだらしい。
ミストは若干の不安を含んだ視線を私に投げかけている。

「イルミナ様・・・?」

「ミスト、お前もよ。この城から出てお行きなさい。それとこの城に何者も入れないようにしてちょうだい。この城にいる者は世話役や護衛兵に至るまですべて下がらせて。」

私は態度を崩さぬまま、ミストに言い放つ。
怪訝そうに、ミストの眉がひそめられ、口から疑問の言葉がこぼれ出る。

「は―――?イルミナ様―――、それは―――。」

「わたくしは今女王です。申す事があるならば態度を正しなさい。」

ぴしゃん、と、ミストの言いかけた言葉を遮ってやる。
私は出来るだけ冷たい目で睨み、ミストを見据えた。

しかし彼女はそれに怯む事無く跪き、恭しく頭を垂れる―――

「は、失礼致しました陛下。畏れながら申し上げます。私は護衛兵まで下がらせるのには賛同致しかねます。」

忠臣ならばそう進言するだろう。
けれど、私は其の言葉など望んではいない。


「わたくしがいつお前の意見を聞いたというの?」

「ですが陛下!」

「祈りの邪魔だと言っているのです!!」

私の一喝でミストは息を飲み黙り込んだ。
驚きの表情がありありと浮かぶ。

「全ての人払いが済んだあとは跳ね橋も上げて誰も入っては来れないようになさい。これは命令です!!」

「陛下…。御意に。」

ミストはうなだれ、私に一礼をしてから部屋を出て行き―――
アクセルと私だけが、部屋に残された。

「貴様、何を考えている?」

アクセルが私に問う。
しかし、もう私はそれを無視した。
部屋を出ようと扉に向い―――

カツッ!バサッ!

床を蹴る音、マントを翻す音がした。
そして、私を睨んだままのアクセルが扉の前に立ち塞がり、私を阻む―――…!

「おどきなさい。」

「もう一度、問おう。貴様、何を考えている?」

問答は、無用だ。
その問いを尚も無視し、アクセルを押し退けてでも進もうとした、その時―――

ひたり、と。

首筋に、冷たい感触。
煌めく銀光の刃が突き付けられていた。
薄く傷付けられた皮に血が滲む。

「貴様が簡単に口を割らぬ事は分かっていた。だから、もしここで貴様が答えぬのならば…。」

手にした剣は微動だにしない。
アクセルは覚悟を見せるかのように息を吸い込み、私を見つめて言った。

「貴様の首を、落とす。」

本当に貴方は、愚かね。
けれど私は―――

がしっ。

私は、その刃を素手で掴む!
ピクッ。アクセルは一瞬動揺し剣を震わせ、刃を掴んでいた私の手が切れた。
銀光に朱が混ざり、ぽたり、ぽたりと垂れてゆく。

「アクセル。私は貴方が羨ましかった。だって貴方は本当にビスクの為だけに剣を振るえる。」

私は強くない。
私は弱いから、この運命を何度呪ったか知れない。
弱いから、何度となく投げ出そうとしてきた。
けれどその度弱音を吐いて、挫けそうな自分を吐露してきたからこそ、私は今ここに立てる。
それを、一番近しいミスト以外には吐露すまい、と誓っていたのに…。
私は今、もっとも吐いてはいけないだろう人に弱音を吐いている。

けれど、いいでしょ?
もう誰も、咎める者はいない。

「私は・・・怖い。とても怖い。でも、立ち止まれば滅びてしまう…失えないものが、総て。」

怖い。ただひたすらに。立ち止まっても、進んでも、結果は同じかもしれないのに。
進めば何か変るかもしれない、そんな淡い期待だけで真っ暗な道を進むのが、怖い。
けれど、進まなければ―――何も、変らない!!

一筋、目から零れ落ちるしずく。
目の前の風景は霞む、けれど、目は、逸らさない。

「だからお願い。私を通して?」

私はアクセルに懇願した。

これ以上留めないで。負けてしまうわ・・・・。
私の想いに応えるようにアクセルは静かに、その身を引いてくれた。

ありがとう―――。

わたしは、刃から手を離し、アクセルに微笑みかけた。
私は汚れていない手でそっとアクセルの頬に触れる。

「貴方がラルファクの愛に満たされんことを。ラルファク・イル・ファッシーナ。」

私は、今だけ小娘になってアクセルに何かを伝えようとした気がした。
けれど、口から出た言葉はこんなもので。
ふふふ、私の中の小娘は随分と晩熟みたい。

一瞬だけ自嘲した笑みを浮かべ―――私は女王に戻った。

「じきに跳ね橋があがり外へ出られなくなります。」

ギィ。目の前の扉を引いてあけて、外に出ると、四角いこの部屋を囲うような形の廊下に出る。血にぬれた手で指差其の先を指差した。その先に下へ続く階段が。

「早くお行きなさい。」

フン、と鼻を鳴らして私を睨み付けて。
カツ、コツ、コツ。
アクセルは廊下を歩き。

私は自らにそれを見送る暇を許さぬよう踵を返す!

「ビスクの事を、頼みましたよ。」

ぽつり、つぶやきだけをその場に残し。
私は逆へ―――昇り階段へとひた走る―――。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「フン。貴様に言われなくとも。」

カツ、コツ。
階段を下りる音に入り混じり、アクセルが返したつぶやきが―――。

女王に届くことは、なかった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


カッカッカッカッ!
靴と階段のぶつかる乱暴な音が聞える。
そして―――

ばたん!!

階段を上り詰めた一番上にある扉を勢いよく開いた。
―――最上階、祈りの間。

「これ以上、このビスクで好き勝手な真似はさせません―――」

部屋の中央に立ち、杖をがしん、と床に打ちつけた。
精神を集中する。

ヴ―――ヴヴ――――。

結界が広がり、強められてゆく。
額に脂汗が浮かぶのがわかる。
おねがい、ノア・ストーン。私に力を貸して頂戴―――・・・!!

「あぁぁぁぁぁぁああああああ!!」



すべての力を、ビスクの守りに注ぐ―――!!


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


バヂィィ!!!

イプス上空では、異様な光景が繰り広げられていた。
巨大な金属の人形―――ノア・タイタン。

その巨影がイルミナ城に迫る―――!!
巨大な人形はその手を伸ばし、まさに触れようとした其の、瞬間。

ヴヴヴ―――バチィッ―――

其の手は、空中で見えない壁にでも阻まれたかのように止まり、そしてぐぐ、っと押し返されてゆく。

バチバチバヂバチ――――

全身から火花を迸らせる金属の人形
そして―――!!!


バリィィイイイイ!!!!


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



どんっ―――!!

力の反動で私は壁に吹っ飛んで壁に背中を強かに打ちつける。
ごきり、と嫌な音がして、私はずるりと地面に落ちた・・・。


「げほっ・・・がほっ・・・な、、なんてこと・・・」

最大の力をだして、こうもあっさりと結界が破られるとは!
しかし―――。

「なんてこと、、、なんてことだというの・・・!!」

破られる結界に流れ込んできた力。
それは、土水火風、4属性。その、根幹とも言うべき純粋な力―――!!

「まさか、まさか、4竜を食らったというの?!」

食らえるわけが無い!
たとえ古代モラ族であろうと、ノア・ストーンの力もなしに世界の4属性を統べる神竜を食らうなどと、、、しかも4匹総てを食らうなど、出来るわけが無い―――!!
いや、、、出来るかもしれない。
4竜がまだ卵のうちに、何らかの細工を施し、4匹総てを取り込んでしまうような罠さえあれば―――。ああ。それでも、まだ、足りない。

7神の化身たる7賢者の何人かを其の身に食らったとしか、考えられない―――!!

なんてこと、、、なんてことなの!!
がくがくと、足が震えるのがわかる。
私はたったひとりで―――なんてものを、相手にしてるんだろう。

怖い。怖い怖い怖い怖いこわ―――!!

ぱしんっ!!!
私は自らの頬を叩き、湧き上がる恐怖を押さえ込む。
私がここで取り乱して、どうする―――!!
杖を地面に付いて、ぐ、っと立ち上がる。

負ける―――ものか―――!!

ノア・ストーンを、奪われるわけにはいかない!!
もう一度、力を集中しようと杖を床に打ちつけて―――

カタリ。

その出現は、あまりに唐突で、あまりに静か。
至極自然に、ゆっくりと、この部屋の一角大きな窓が開く。

そこから、ゆるり、と人が現れて・・・とすっ、部屋へその両足を下ろした。
その人影は私を見て、ぺこり、とお辞儀をした。

「お前は、何者?」

杖を握り、私は問う。
"青い"さらさらの髪の毛を、風に靡かせてそこに立つ一人の女性。

「初めまして、女王イルミナさま。それから、とてもとても残念ですが・・・。」

ぎりり―――。
歪な音が聞こえた。

いつの間に手にしたのか―――・・・。

目の前の女性は体躯に似合わぬ、巨大な弓の弦を引き絞っていた。

「さようなら、です。」

「わたくしがそう簡単にやられるとでも?」

杖を手にし、その石突で床をがり、と引っ掻く。
私の目の前に防御結界が展開した。
たとえ魔法の篭った矢であろうと、そう簡単にはこの結界は突き破れない。
ノア・ストーンはなぜかまだ敵の手には落ちていないようだ。
それでも防戦一方になってしまうけれど―――。やられるわけにはいかない!!

なんとか、手を、考えなくては―――。

「ええ、きっと私は勝てなかった。貴方一人だったならば。」

―――何を、言っている?
その弓の先は、私を狙っていない―――?!
振り向く―――まさか!!

「けれど、私も退けないんです。ごめんなさい―――。」

ビュゥッ!
風切り音と共に矢が放たれる。

矢の、向かった先―――
扉の向こう側から、こちらを覗く瞳が驚愕に開かれる!

私の身を案じて戻ってきただろうミストがそこに居た。

馬鹿ミスト―――あれほど、行きなさいって言ったのに!!!!!
ダメ―――間に合わない!!!!

ザシュゥウウウウッ・・・・!!!


「イ…イルミナ…様ぁっ…!!」


ミストの、悲鳴が、聞こえる―――。
ミストに、防御結界は、間に合わなかった。
だから、私は―――
ミストを、かばうために、矢を、受けた。
どくどくと熱い血が流れてゆく、、、致命傷、だ。

私は、億の命と、一人の命を、両天秤にかけて…。
結局、一人の命を、選んで、しまった…。
その一人の命も、まもなく、潰える、だろう…。

魔女にも、女王にも、何にも、なりきれない、哀れな、私―――。

「い、、、いやあああああああああああああ!!!!!!」

ミストの、絶叫が―――木霊して、遠く、遠く―――


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「ごめんなさい―――。」

その女性はただ一人。最上階の祈りの間に佇んでいた。

「貴方を、尊敬します。イルミナ様。貴方は強く、気高かった。」

そして、イルミナの亡骸の傍に跪く。

「私の名前はbluenote。ねえ、イルミナ様。」

女性は亡骸の耳元に、口を寄せて―――

「貴方に、お願いがあります―――。」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


じゃららららららららら……!!

どぉぉおおん、どぉぉおん…ばしゃ―――ん…

ノア・ストーンを繋ぎとめる鎖が引きちぎられ、無造作に捨てられてゆく。
湖に落ちたものは、大きな水しぶきを立て、場にそぐわぬきれいな虹を作り出した。

そして、最後の鎖がちぎれ、解けてノア・ストーンに自由が訪れる―――…!!

カッ―――!!!

まばゆい閃光!!!そして―――


ドフォォオオオオオオオオ…ッ!!!!!


閃光と共に訪れた爆風―――!!
イプスに生える木々が根こそぎ倒れ、吹き飛び、湖の水が蒸発し、辺りに不快な熱風が吹き荒れる!!


爆風の静まった後―――。そこには―――。
何も、なかった。

イルミナ城は、跡形も無く消滅し、ノア・ストーンも、ノア・タイタンも何処かへ消えていた。


モラ暦1306X年 花冷えも過ぎた初夏の午後。 

女王イルミナ・死亡。
大神官ミスト・行方不明。


イルミナ城の、消滅―――。
歴史の歯車は急速に回り始める―――!!



to be continued.



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"不安" ― イルミナの幻影 ―

ガリ。ガリ。

私の歯と歯にすり潰されて、かわいそうな私の爪は歪な音を立てる。

ガリ。ガリ、カリ。

それでも私は爪を噛むのをやめられない。

カリ。ガリ。ジュルリ。

…噛んで、噛みちぎって血が出ても。

カッ。カリカリッ。ガリ。

やがて噛めなくなるまでそれは続く。
噛めなくなった事を知れば、別の爪を捜して唇に指先を押し付けた。
今私の右手の親指と人差し指と中指の爪はぎざぎざに噛みちぎられて、
今噛んでいる左手の中指の爪からは血がにじんでいる。

奇異なものを見るかのように私を遠巻きに見る視線を感じる。
贅沢は言えない。ここは女性下士官の詰め所。私のプライベートエリアなんて贅沢なものは無い。もともとあった隊舎はノア・ストーンの暴走時に石壁が崩壊寸前となりそのまま閉鎖された。
私はだだ広いこの仮設の詰め所に、無造作に置かれた椅子に腰をかけ、ただぼんやりと虚空を眺めながら爪を齧っていた。


昨日、あの戦闘。
私が負ける要素は全くなかった筈だ。

最初、坑道に逃げ込み誘っていたとき。
相手は道をしらなかった。もっと全力で逃げて撒けばよかった。そうすれば狭く、相手が分からない坑道で、私はどこからでも不意打ちが出来たはずだ。
仮にあの作戦のまま、坑道の外が見えるあの一本道に誘い出したとしても、、、
まず中に攻撃系の魔法を打ち込む。
それでも広い場所に逃げようと相手は此方に向かってくるだろう。
それを"ミツクニ オーダー" 後退させる魔法で押し返す。
更に其の間に毒の魔法を使っておく。"オーブン"の魔法でもいい。
相手は"サムライ"だ。包帯を扱える事は分かっていた。
包帯は癒しの力を吐き出して塵に還るけれど、弱点がある。連続してダメージをくらい続けると、いやしの力が発動しきる前に崩壊してしまう。
毒で包帯を封じて、もし相手が此方に向かってくれば、私は離れて魔法を撃つ。
更に剣で止めを刺したければ、"コーリング"の魔法で引き寄せて刺せばいい。
もし相手が坑道の中に逃げ込んでも同じ事。
むしろ、相手の行動が制限される分、其方のほうが遥かに楽。
私は相手に止めを刺し、それで、ジ・エンド。其のはずだ。

今シミュレーションをしてみても、私が負ける要素は欠片も、ない。

けれど、負けた。
私は、負けた。
―――原因は。分かっている。はっきりと。
それでも、認めたく、ない――――。
―――分かってる。分かってるわ。

"冷静じゃなかった"

怒りで我を忘れていた。
ギルバートを馬鹿呼ばわりしたのは許せなかった。
でも、―――実際に、あれは事実だった。

"負けるはずがない"

慢心、していた。
トイレに行ってからなんて。
ふざけた事言う奴に負けるわけなんか無いと想ってた。
でも、それは慢心していい理由にならない。

その結果当然のように負けたのだ。鼻で笑われても仕方がない。
中指の爪が齧れなくなった。
其の隣の薬指の爪を咥える。

悔しい。悔しい。
全身に悔しさが巡る―――。
あの銀色の女にやられた事が悔しくてたまらない。
当然だ。敵国の敵兵なのだから。

けれどもう一方で。
ラル・ファクの愛で本当に救わねばならないのは、彼女のような気がしていた。
ラル・ファクの愛を、理解できない彼女。
ラル・ファクの愛が、世界を包む。それをただの侵略戦争、と。

「ただの侵略戦争、か。」

胸の中にもやもやとしたものが生まれる。
そう、そうだ。

神の愛を信じられない。
それは神の愛を感じられない、と言う事。
それはとても"不幸"なことだ。
彼女は敵兵。そして異教徒。
けれど、、いや、だから、かもしれない。
彼女こそラル・ファクの愛で"救わねば"ならないと感じる。

今まで滅ぼすことしか考えなかった私にとって初めての経験だった。
イルミナ様やミスト様の御考えが、今なら分かる気がする。

私は今まで"あの暗闇"から抜け出せずにいたのかもしれない。
初めて外に出たような新鮮な気持ち。それから。
いまだ消えぬ、もやもや。
きっと、彼女を、ラルファクの愛で救いさえすれば―――。

きっと晴れる。
そうに、違いない―――。


ガリ、、、ガリ、、、。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


空に煌々と輝く月が見える。


ぼんやり。
私の目は虚空を泳ぐ。
考えてるのは昨日のこと。

ガリガリ。頭を掻く。

結局昨日、勝ったのって運要素だよねえ・・・。
相手が冷静ならおそらく魔法をうまく使って私に剣でトドメを刺すことも出来ただろう。

ガリ、ガリ。

一番期待してなかった相手の慢心か怒り。その要素で勝っただけだ。
次はこうはいかないだろうなあ。
もっと精進しないと・・・・。

ガリ、ガリ。

それと―――気になっていること。
迷いながらタルタロッサ・パレスを目指して居た時。
私は、見たような気がする。

ガリ、ガリ。

あれは隊長だった。多分―――。
隠れるようにこそこそと、誰かと一緒だった。
暗くてはっきりとは見えなかった・・・。だから。
似たような背格好の人は大勢居るだろうから見間違えたといわれれば其れまでだけれど・・・

"スパイ"

其の一言が私の頭に浮かぶ。
まさか、隊長に限って・・・ありえない。

ガリ、ガリ。

・・・・・・・・・・・。

っだあああああ!!頭がかゆいっ!!
此処のところまともに水浴びすら出来ない状況。

なんとか疑いを引っ込めて貰ってエルガディンに戻ってきたものの、私を良く想わない目は多く、むやみやたらと出歩かないことにしている。
おまけに未だに監視はきえていない。疑いを引っ込めて貰う条件がそれだからだ。
いい加減ストレスが溜まってくる。

・・・貯水池、いって桶に一杯水貰ってくるかあ・・・。
せめて髪の毛だけでも水で流そう。体はぬらしたタオルで拭けばいい。
貯水池は地下まで続く巨大井戸。エルガディン王国は乾いた気候のため、この貯水池は生活の要になっている。まあ、地下の奥深くには豊かな水脈があるようで、水そのものには困ってはいないけれど、此処は重要なポイントだ。
ヴァイトという男が見張りをし、貯水地に通じる路地は屈強なガード達が警護している。
ガードのクリストフとは仲がいいからいいけど、、、私は正直、このヴァイトという男が苦手だ。
慇懃無礼だし気色の悪い笑い方をするし・・・。
ううっ・・・桶いっぱいだけ水貰って帰るだけだし。考えない考えない。

クリストフに挨拶をして貯水池の中に入れてもらう。
水があるからか、空気がひんやりとつめたくなった

「おや、SilverNoteさんではありませんか。」

貯水池に着くと、張り付いたような笑みを浮かべた男が出迎える。
ヴァイトだ。私は愛想笑いを浮かべた。

「桶に水を一杯貰いたいんだけれど・・・。」

「ええかまいませんよ。どうぞ遠慮なくお持ちになってください。」

ニコニコと張り付く笑みを浮かべてヴァイトが言う。
お前のじゃないだろ。心の中だけでツッコミを入れる。
桶に水を汲むためにしゃがむと、用もないのにヴァイトはべらべらとしゃべりかけてくる。

「いやあ、この度は大変でしたね。いや、実に大変でした。貴方がスパイだなんてことがあろうはずもないのに!いやあ、本当にお疲れ様でした。」

ウザぃ・・・
手桶で大桶にじゃぶじゃぶと水を汲む時間がもどかしい。
早くこの男の前から立ち去りたい。

「そうそう。SilverNoteさん。"亡命"って知ってますか?」

「はぁ・・・?」

われながらなんとも間抜けな声を出してしまった。
亡命?なんだ、そりゃ。

「亡命、ですよ。あくまでも、噂。仮定でお話しますが・・・。Newbie以上なら、、、5000jade、もあれば敵国に亡命を手引きする"亡命斡旋屋"に頼んで亡命をすることが出来るらしいんですよねえ・・・。」

にやり、にやにやと気持ちの悪い笑い―――
まさか―――

「まさかアンタ・・・・」

「おおっと、誤解なさらないでくださいね?私は別に亡命を手引きしているわけではありませんよ・・・・?まあ、5000jadeもあればそんな輩も出てくるかもしれませんから、話はわかりませんが、ね?」

5000jade・・・。warlordの給料ほどの金額―――。
それが、あれば、亡命が出来る、とコイツは暗に言ってる訳だ。
私は――――

ヴァイトの胸倉をつかんで壁にがん!と押し付ける!

「この―――恥知らず!!!今のはエルガディンを裏切る発言ととっていいの?!ミクル様の前で今と同じことが言えるって言うの?!」

「ガハッ―――そう、熱くならないでくださいよ!!タダの噂、仮の話って言ったじゃないですか!」

「ふざけんな!?5000jadeなんて具体的な数字を出してよくもそんな事が―――!ミクル様の前にお前の首を突き出してやる!!」

私は腰の刀に手を伸ばし―――

「しょ・・・証拠は!!!証拠なんてどこにもないじゃないですか!!そんな常態で私の首を差し出してごらんなさい!あなたが反逆罪でつかまり、永久にプリズン・マインから抜け出せなくなりますよ?!」

その、手をとめた。
悔しいけど、コイツの言うとおりだ。
私だって、プリズン・マイン―――強制労働の牢獄で一生を終えるなんて、嫌だ。
チッ―――舌打ち一つして、私はヴァイトの胸倉から手を離した。

「此処まで熱くなる方がいるとは―――正直思いませんでしたよっ・・・。まったく・・・。」

服をただし、呼吸を整えながら、ヴァイトは私をにらみつけた。

「すぐ熱くなる馬鹿でごめんなさいねえ?」

つっけんどんにぶっきら棒に棒読みで言ってやる。
うわべだけの謝罪ってのは相手にも伝わったようだ。
ふん、と鼻をならして、ヴァイトは続けた。

「まあ、エルガディンにはともかく、ビスクにそういう"斡旋屋"がいるのだけは事実ですね!だからそれに関してこちらにもそんなのがあるって噂が流れてますよ、って言っただけ、それだけじゃないですか!この話はお互いもう忘れましょう。お水は汲んだでしょう?さあさあ。どうぞお帰りくださいな。」

言われなくてもそうするわ!そう言おうとした。
けれど、、、引っ掛かった。

「ビスクに"斡旋屋"がいるのが事実・・・?」

呆けた顔で私が聞くと、ヴァイトはにやにや笑いを取り戻した。

「おや、、、おやおや!知らなかったんですか!?貴方がたの隊長の事なのに!」

「え―――?」

「タウルス隊長!彼は、ビスクからの亡命者、なんですよ・・・?それをまさか、隊の人が知らないとは!!こりゃあ傑作だ!!きっと後ろめたいんじゃないんですか・・・?」

隊長が、隊長が―――?

「そんなこと、あるわけないッ!!!!!」

「否定しても、事実はかわりませんよ。ご本人にでも聞いてみたらどうですか?」

ヴァイトは、煩そうにそう言った。
ふぅやれやれ、などと言いながらもと居た場所に腰をおちつけている。
けれど私には、それがとても遠い事に感じられていた。

―――隊長が・・・。
まさか―――

さっきありえない、と否定した"スパイ"の、3文字が。
私の中でゆっくりと、首をもたげはじめた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「なんだ―――ありゃ・・・・。」

ビスク西、見張り塔。
見張り当番であった男は、黒くうねる群れをみつけた。
風のざわめきで、森がうねっただけかと想った。けれど・・・。
ビスク西眼下、ミーリム海岸に森などない。
では何がうねって列を成し連なって、大軍で押し寄せてきているのか?

(ありえない。ありえない。ありえない!!!!!)

見張りの男の頭を埋め尽くすのは、"ありえない"たったその5文字。
けれど―――。

眼下にひろがるその黒いうねりは、確かに人の群れだった。
ビスクの兵より遥かに多い人が、このビスクに押し寄せていた。

(エルガディンにこんな兵力はないはずだ!!
なのにも関わらず、なんであいつらエルガディンの鎧を着てるんだよ・・・?!)

はっ!と男は気づき、傍にあった紐をぐい、と引っ張った。

どぅがらん、がらんがらんがらん―――

ビスク中に、音が響き渡る。

「敵襲ぅうううう!!!!!」


男は、叫んだ。
目の前の光景がただの夢で、寝ぼけて紐を引っ張った自分が咎められる、そんなオチならどんなにいいんだろう。そう思えるほど眼下の光景は、脅威に満ちていた。
城門が破られる。わらわらとエルガディン兵はビスク内部に押し寄せてきた。
まるで決壊した川の土手から水が氾濫するかのように―――。
その時―――!

まばゆい光が煌き、どん!という音が響く!
光とともに大群の目の前に、人影が現れた。
わらわらと進軍してきた大群は、そこで足を止める。
ビスク西、元ジオベイ闘技場前のビスク入り口。
坂になったところに、エルガディン兵が詰まる形になった。

頭に王冠が煌き、手に杖を持った人影―――。
見張り台の男は、ぽつり、呟く。

「イルミナ、様・・・?」

女王イルミナは、杖を掲げ、大群に突きつけてこう言った。

「下がりなさい!此処はお前達が来るところではありませんよ!神聖なるラル・ファクの都、ビスクを汚すことは、このイルミナが許しません!!」

そう、叫んだ女王イルミナの姿は―――透けている。
それはイルミナ本体ではなく、幻影だった。

「幻影ごときが、われわれを止められるとでも?」

そう言って、大群の先頭に立つ男はイルミナの幻影に手を伸ばす。
すると―――

「な―。」

ざぁぁぁ・・・・ごとん。
手を伸ばした男は短い断末魔をあげ、指先から塵になって、消えた。

「例え幻影であろうとも、お前達如き輩がこのイルミナに触れる事は叶わないと知りなさい。」

そう言い放ち、イルミナは、一歩前進する。
ざ―――。
巨大なうねりが、動揺をしたかのように少し下がった。
まるで、イルミナの前巨大な壁があるかのように―――じわり、じわりと。。

「戻り、貴方達の主に伝えなさい。"時は満ちた!この女王イルミナ、貴方がたの挑戦を受け取りましょう"と!」

凛、とした声が響き渡る―――。

「了解した――――。」

苦々しい声がそれに応え、大群はまたもと来た方へうねり去ってゆく・・・。
―――それは、とても短い間に起きた出来事で。

「なんだったんだ、、、今の。」

見張り台の男は自分が夢を見ていたのではないか、と想ったが・・・・

つねるほほの痛みが、現実を教えてくれるだけだった。



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ダーイン山にて −衝突 激突 究極のライバル?−

面倒なことになったなあ・・・。
私の心中を知ってか知らずか。
ジュエリーンは私を召還アルターで此処まで連れてきた。

「此処なら、邪魔も入らないわ。」

ダーイン山。かつてはオーク達の住処であったこの土地。
鉱石が豊富であった為、物資調達の要とされる場所だった。
そして戦争のために切り開き鉱石は掘りつくされ、
オークたちは両軍によって一掃され・・・。
それから、お互いの軍にとって重要な拠点として利用される予定が、中立派の抵抗によって難しくなった・・・とは、聞いている。
だけど私はオーク討伐部隊に加わった事がなく、最後にダーイン山を訪れたのは、ざっと10年前…プレゼントエイジより以降私は此処を訪れていない。しかし彼女はレコードストーンを持っていた。つまり、地形を少なくとも私よりは理解している。

此処は10年ですっかり様変わりしていて……見知らぬ横穴、どこにつながっているかもわからない坑道がぼこぼことあいている。つまり地の利で圧倒的に分が悪い。
勝算があるとすれば、彼女に仲間がいない事が大前提として、呪文詠唱前に攻撃して潰す、もしくは向こうが私に対して慢心してくれたり怒りで我を忘れてくれたりすると完璧なんだけど―――うーん…そこまでは望めないか。。

うん、圧倒的不利!まあいっか、後は臨機応変で。よし!
私は一瞬でそこまで考えると脳内作戦会議を終えた。

…………。

…Diasさんか隊長にでも聞かれたらそれは作戦じゃねえ!とか言われそうだけどね…。

「始めるわ。準備はいいのかしら?」

ジュエリーンがそう言った。
私は眉をひそめる。

「ずいぶん紳士的。いきなり襲い掛かられたり隠れて呪文唱えられたりするかと思った。別に私は大丈夫だけど?」

「馬鹿馬鹿しい。これは戦争じゃない。ただの喧嘩よ、貴方とあたしの。最初から有利で不意ついて勝ちました。それで勝って何が楽しいの?」

ヒュゥ!私は口笛を吹いた。
このお嬢さん、なかなかたいしたタマじゃないの。
彼女に静かで狡猾なイメージを抱いていた私は少し驚いた。
詠唱者にしては好戦的。この分なら大前提の仲間が居ない、ってところは満たされたといってもいい。もちろんこの口上がブラフで、私が油断したところで敵さんがわらわら、なんて可能性がゼロ、ってわけじゃない、けど。
少なくとも相手が大人数なら私ごとき相手にそんな回りくどいことをせず、いっきに袋にしてしまえば済む話だし。何より相手は私がOKというまでちゃんと待っている。
私が圧倒的に不利な状況であるにもかかわらず、紳士的に一対一<タイマン>で決着をつけようとは。悪くない態度だ。気に入った。

ぺろり。
わくわくする戦闘の前に舌なめずりをするのは私の悪い癖。

「わかったわ。OK。はじめましょ。」

私がそういうと向こうも満足そうに微笑み―――
いざ、戦闘の火蓋が切って落とされ・・・

「―――・・・あ"。でもちょっとタンマ。」

なかった。私のさえぎりによって。
ジュエリーンは思い切り顔をしかめる。
そりゃそうだよね。今まさに戦闘態勢にって所で遮られれば。
でも、私には必要な事だった。

「何?いまさら怖気づいたの?」

「いや。そうじゃないけど、かなり言いづらい。」

「何よ??」

意味がわからない、という感じで腕を組むジュエリーン。
そんな彼女に私はかなりまじめな顔で言う。

「トイレ。」

「は??」

間抜けな声をあげてジュエリーンが聞返す。

「トイレ、いってからでいい・・・?」

しばしの沈黙・・・。
――――重苦しい、一瞬。
やがて彼女は口を開く。

「ふ―――」

「ふ?」

笑うようなところだっただろうか。
私としては、笑えない出来事なのだけれど。
そんなことを思っていたら―――。

「ふ―――ふざけるのもいい加減にしなさいよ?!」


怒鳴られた。当然の反応だ。
どうやら笑っていたのではなくあまりのことに言葉が詰まっていただけらしい。まあ、普通はまじめな顔でこんなこと言われたら誰でもふざけてるって思うだろう。私だってそうだ。けど、私にとっては切実な問題だ。
ああ、この真剣さが伝わらないのは、悔しい。

ジュエリーンは怒りを通り越してばかばかしくなったらしい。
彼女に、私を小馬鹿にしたようなあきれた態度が戻ってきた。
そしてふふんと、私を鼻で笑った。

「どーしても行きたきゃ、さっさと私を倒すことね。」

そして、はぁ、とため息。
ちっくしょー!やっぱそうなったか!!
ぎりり、と歯軋りをして目の前の彼女をにらむ。

うん、決めた。
3分ではったおす!!


「オーケーィ!いっちょやりましょ!」


私は叫び、相手は頷く。
かくて、戦いの火蓋は切って落とされた。
ザッ―――。
対峙してにらみ合う。最初に行動したのは、私。
地面を蹴ってすばやく間合いを詰める。
詠唱前に叩き潰す。でないと―――。

ビュッ―――

思うもむなしく、私の刀は空を切る。
チッ!そう甘くはないよね!
軽く舌打ちをして相手の姿を確認すると・・・。
横っ飛びに飛んだ直後、身を翻し傍の坑道の一つへ!

ほうら!厄介なことになった!

慌てて追いかける。
坑道の中は入り組んでいて見失えば負けは確定したようなもの。
細くて狭い坑道では避けようがなく、かと言って開けた場所で待ち伏せしててもどこかの坑道から狙い撃ちされるのがオチ!
罠だとわかっていても飛び込まなければならないこの理不尽さ!やっぱ、こう来なくっちゃ!!
私はむしろ笑みすらうかべ、彼女をおいかける。

彼女が曲がる。私は走る。
私が走る。彼女は―――。
まるで誘うかのように、背中だけ見せて。
坑道のグネグネした道を、舞うように走る。
追いかける。だんだんと差が開いてゆく。
彼女の姿が、奥の道を曲がったのが見えた。
私も走り、急いで曲がる。一本道。彼女の姿は無い。
道の先には明るい日差しが見える。つまり外だ。

―――。私は一瞬立ち止まり、思案した。
これは、明らかに罠。
私が射程範囲内に入ったら魔法の連打、なんて洒落にならない。
でも、次の詠唱までのタイムラグがあるだろうからその間に外に飛び出せばどうにかなるだろうか。また坑道の中に逃げ込まれるかもしれないけど、そんときはそんときって事で。
私はアイテム袋の中に片手を突っ込み、体勢を低くして走り出した―――!

おかしい。
充分な射程距離に入ってるはずなのに、魔法が来ない。
まさか、逃げた?いや、それはありえない。
その時、風の唸る音がした。
そうか、手の内って―――そういう事か!!

私は地面を蹴って跳ね、体を伸ばして外へ飛び出す。

「エクセキューション!!!」

風の唸る音に混じり、彼女の叫ぶ声が聞こえた。
振り下ろされた剣の下を潜り抜け、両手で着地。
そのまま前転でごろりと転がりすばやく立った。
その間に彼女は呪文を唱える。
私は振り向いてアイテム袋から手を引き抜く。
彼女は魔法を私に放つ。

「バースト!!」

ドフォッ!!爆炎が轟く!
しかしそれをなぎ払って私は彼女に詰める!
左手は黒こげ。手の甲の皮が裂けてめくれている。
しかしそれを、用意していた包帯を手早く巻いて隠した。
ただの布じゃない。スパイダーシルクを織って作られたシルク製の包帯で、癒しの力が込められている。巻き終わると、ちりちりちり・・・と癒しの力を吐き出しながら包帯は粒子に還った。
私は左手のワキザシを握りなおす。火傷は消えていた。
そして彼女にそのまま詰め寄る。
彼女は私の接近に目を丸くしながら跳び退る。
私はそれに合わせて地面を蹴り、やはり彼女に詰め寄る。
彼女は何を思ったか、くるりと背を向き―――

私は左手の刀を強く引き、腹の位置で構え―――。

突き出した。時に、見えた。
彼女の脇から覗く、金属の刃先。

『ダイイング スタブ!!!』

私たちの声が重なる。一瞬だけの、奇妙な調和。
私の刃は彼女の肩をえぐり―――。
彼女の刃は私のわき腹をかすめ、私の鎧を切り裂く。
間一髪、身をひねり私は彼女の攻撃をよけた。
危なかった。あと少し、気づくのが遅ければよけられなかった。

「っ―――この!くねくねと!」

彼女は悪態をつきながら剣を引き飛び退る。
そして私は剣を振りかぶり―――

ガキン!!

剣と剣がぶつかり合う。
ギギギギギ、と金属のこすれあう嫌な音が響く。
鍔迫り合いでにらみ合う。

「まさか魔法剣士だったとはね。」

「フン。一言も剣が使えないなんて言ってないわよ。」

「まあ、そっちのほうが面白いんだけど―――ねッ!」

左手に持った剣を突き出す。彼女は見越していたようによける。
そして彼女はわたしとの間を取るために走り出す。
―――これなら、勝てる!
右手の刀をすばやく腰に差し、予備の剣と持ち替える。
コレは、どこぞの敵兵を倒したときに手に入れたなまくらだ。
けど、こんなときには役に立つ。

相手も剣から本に持ちかえて魔法を詠唱している。
魔法の詠唱は直ぐに終わった。

「ポイズン レイン!」

なるほど、そう来たか!
毒の雨が私に降り注ぐ。ぐ―――けっこうキツイ。
嘔吐感。ずきん、ずきんと間隔をあけてやってくる痛み。
私は息をひとつ吐く。
彼女はもうひとつ別の呪文を唱え始めていた。
私と彼女の距離はすこしひらいている。
にやり、と笑って私は剣を振りかぶり―――

「ソニック ストライク!!!!!」

投げる。
ぎゅん―――!!!
音がして、剣が光り、飛翔し、狙いたがわず――
彼女の腹を貫いた!

剣は砕け消滅し、彼女は膝から崩れ折れる。
私はアイテム袋の中に手を突っ込み触媒を取り出した。

「アンチ ドート」

唱えると、私の体内を蝕んでいた痛みが消える。
私だって簡単な回復魔法は使えた。
それを見てジュエリーンはうめく。
手の内を見せていなかったのは、こちらも同じ。
ふふん、と笑い私は彼女の傍に歩み寄る。
そして、ワキザシを彼女の喉に突きつけた。

「勝負、あったんじゃない?」

「―――完敗よ。認めるわ。」

「魔法だけで来てたら、私もやばかったんだけどね。」

「剣を使って貴方を倒したかった。」

「無理。アンタ、力も無いし剣の腕もそう良いって訳じゃないよ。」

「それでもよ。悔しかった。貴方がギルバートを馬鹿呼ばわりしたのが、悔しかった。だから彼に教えてもらった剣術で倒したかった。」

「そう―――そっか。」

剣士のほうが"ヘイト様"ってことはおそらく忍者装束の方が"ギルバート"だろう。そっか。そいつに惚れてるんだ。いたずら心に身を任せてからかい過ぎた事をちょっと後悔した。

「けど、私の剣の師はアクセル様の師でもあるあのオグマよ!私に剣で勝ちたかったら生半可な気持ちじゃ勝てないわよ。もう少し修行して出直しておいで!」

ああ。。。。ちょっと言い過ぎたかと思って謝ろうとしたのに。
口から出るのはそんな悪態で。
自分の天邪鬼ぶりにため息が出る。
だって、敵に謝るのってなんか恥ずかしいじゃない。

「―――ぅして?」

「え?」

聞き取りづらかったので聞き返す。

「どうして?どうしてアクセル様に"様"って。それにあのオグマの元で剣術を磨いたなら、どうして?どうして貴方はエルガディンにいるの?」

真剣なまなざしが、私を貫く。

「どうして、ラル・ファクの下ですべてを愛に導こうとしないの!?」

彼女の目は真剣だった。
真剣だったからこそ―――反吐が出る。

「嫌いだからよ。ラル・ファクが。」

「何―――ですって?!」

「ラル・ファクの愛?!吐き気がする!!別にただのエルガディンとビスクの喧嘩なら私だってビスクについたかもしれないわ!!でもね!ラル・ファクの教えを広めるため、なんて大義名分が私は大ッ嫌いなの!!やってることはただの侵略戦争じゃないの!!ノア・ストーンを奪って、世界を支配するためだけの!!それを神の愛を広めるため?神の愛を理解できない野蛮人を打ち滅ぼす?!そんな大義名分掲げて正義面して、貴方たちは大切なものを奪いすぎた!!だから私は許さない!!イルミナも!ラル・ファクも!!」

「なん――。」

「アクセル様のことは敬愛している。でもそれとコレとは関係ない!―――これで分かった?」

何かを言いかけた彼女をさえぎって私は言う。
彼女は、私の逆鱗に触れたことを悟り、口をつぐんだ。
しかし、私も彼女の逆鱗に触れたのだろう。
彼女の両目から爛々と怒りの炎が噴出していた。

しばしの、静寂。
打ち破ったのは、私のほうだった。

「分かったでしょ、もう勝負もついたんだから、早いところアルター出してよ。私、ちょっと事情があって此処にいるわけにはいかないのよ。」

「嫌よ。」

―――?!
即答された。え?何で?
彼女の顔には、悪戯を思いついた子供のような笑顔。
まさか―――。まさか!?
慌てて左手を引く!が、遅かった。

「この勝負私の勝ちよ!また、会いましょ!」

ざぐっ――――。
嫌な音がした。
彼女は、私が突きつけていたワキザシに―――。
自らの首を突き刺した。
ごと―――と彼女が倒れる音。

「や、、、やられたぁ・・・。」

彼女も"旅人"であるからには、死ねばヌブールの村で"復活"する。
そして私は神秘魔法なんて使えないので、帰れない。

試合で勝って、勝負で負けた?
これから、どうしよ?
とほほ、、、ため息がもれた。

でもまあ・・・イヤリングは取り返した。
きゅっ。耳につける。久しぶりの感触。
―――また、会いましょう、か。
ライバルの出現。
私はなぜだろう。胸を躍らせている。

そして私は思い出したかのように―――
物陰に隠れて。小さな用を足した。


其の後。
なんとか近くの中立キャンプにたどり着き、土下座してアルターを使わせてもらうことが出来た。途中でDGが現れなければもしかすると袋叩きにあったかもしれないけど。
DGは、中立派のリーダー格の人の兄らしい。
びっくりしたが、彼は自分は凄くないのだと笑っていた。

そうして戻った後で、監視役だった(やっぱりいた。)イリヤスさんとエルディさんに。
貴方が居ないのをごまかすのにどれだけ苦労したと思っている!と
こってり絞られたのは―――また、別の話。




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仇敵参上? ―挑発の失態―

ぴぴぴ…ちちちっ。
鳥の囀りが聞こえる。木漏れ日が差し込む。
平和でのどかな唯一の場所、此処はヌブールの村。

あの、後―――。

我がエルガディン軍は壊滅的な打撃を受けた。
突如現れた謎の怪物。
それによって受けた被害はそれほどたいしたことではなく。
軍を再編成しなおしてもう一度攻め込む事も出来たはずだ。
けれど、それは叶わなかった。

なぜなら、その後にビスク軍が攻めてきて今度こそ我が軍は壊滅敵な打撃をうけたからだ。

生き残ったのは"旅人"だけ。
そう。旅人だけ。
10年前の反乱軍鎮圧で多大な功績を残し
我が軍最強の指揮司令官であったWarlordリゴス。
彼もこの戦場で命を落とした。
我がエルガディン軍は兵士だけでなく大きな指揮力も失った。
この戦に於いて一番重要である、統率力と、士気。
今のエルガディンからは、それも失われていた。

Warlordリゴス。彼のことを思い出す。
模擬戦で手合わせをしたときの事。5vs5のチームに分かれて行うもので、大将を討ち取ったほうが勝ちという単純なもの。
私は序盤から、大将役の彼に一騎打ちを申し込み、彼をぎりぎりまで、追い詰めた。そう思っていたのに。
私がそうしているうちに周りの私の味方役は別個に撃破され、その模擬戦は私側のチームの惨敗だった。
肩を落とすわたしに彼は、

「SilverNote。戦は、剣と剣だけがぶつかり合うのではない。国と国、人々、思惑と思惑、思案と思索がぶつかり合うのだ。真っ向からゆくだけで解決されるものではないのだぞ。よく、考えることだ。」

そう教えてくれた。
私の剣の師はオグマだが私の戦の師は間違いなく彼だ。
胸の奥にこみ上げる切なさをぐっとのどの奥に封じ込める。

彼のためにささやかな追悼式が開かれた。
皆で黙祷し、彼の死を悼んだ。
彼は”旅人”ではない。死人は還らない。
きっと仇はとってやろう、と。誰もが思ったに違いない。
だからこそ、彼の追悼式の後に、こんなうわさが流れた。

"あのタイミングでビスク兵が現れたのはあまりにもおかしい。スパイがエルガディン兵の中にまぎれているのではないか?"

と。
しかも真っ先に疑われたのはなんと私。
謹慎直前の行動が不審がられたのと、謹慎で安全な場所にいたのと、それから私がその・・・アクセルさまを・・・その・・・――尊敬していることまで持ち出して。
ミクル様やウォルフガング様、私が元居た第9小隊と今居る第7小隊の面々は、私がそんなことするはずがないと思ってくれてるみたいだけど・・・。ほかの隊のメンバーの中には快く思わないも多いらしく、今エルガディン軍全体がぴりぴりとしている。
ミクル様は私に、伝令遂行の"賞休"として、しばらく休みを与えてくれた。つまりしばらくエルガディンから離れていろ、って事だろう。あまりの不自由さに肩が凝る。
もしかしたら簡単な監視くらいはついてるかもしれない。
いくら信じていても、スパイと疑われているものを野放しにはミクル様もできないだろうし。
怒りの矛先を向ける方向を、なぜビスクに持っていかないのか。
私は以前にも考えたことを思い出す。

"想いがそのまま通じれば、人はこんなに争うことも悩むこともないのではないだろうか"

まったく。
そうすれば潔白もこの不自由さも伝わって万々歳なのに。

・・・そんなことを考えながら歩くと、知った顔を見つけた。
私は手を上げて彼の名前を呼ぶ。

「ハァィ、DG。」

大柄なパンデモスの若者はこちらを振り返る。
どうやら、露店の後片付けをしていたようだ。

「コンニチハ。えと・・・。」

DGは何かを悩むようにうつむいた。
あ、そういえばこの間私は名乗らなかったんだっけ。

「SilverNoteよ。銀でもノートでも好きなように呼んで。」

私が笑ってみせると、DGもつられて笑ってくれた。

「今日はもう、店じまい?」

露店の後片付けをしているという事はそうなんだろう。
でも何か残り物がないか、期待を込めて聞いてみた。

「ごめん。もう、全部売り切れ。のこってない。」

「そう、残念。まあ、いいいよ。」

本当に残念だ。DGの揚げパンは本当においしい。
落ち込みそうな気分の時には最適と思ったのに。
ひっそりとため息をついて、髪を掻き揚げた。
そのとき。

「イヤリング、ない。どうした?」

――そんなことを言われた。
しまった。髪を掻き揚げたから耳が見えたんだ。
この間イヤリングを褒められたのに、盗られてしまった。
なんとなく後ろめたさのようなものがあって嘘をつこうかと思ったけど、純粋なDGの瞳を覗いていると、嘘をつくのもはばかられて本当の事を言うことにした。

「盗られたのよ。BSQ兵に。」

―――ッ!やっぱり嘘つけばよかった。
DGは切なそうな顔をくしゅりと歪める。
ヤバイ!此処で泣かれたら私、完璧極悪人!!

「あ。でも気にしないで。盗んだ奴は知ってるから、今度はそいつをボコボコにして取り返してやるつもり。」

慌てて言った。本当のことだったし。
DGに切なそうな顔をされるのは正直耐えられない。
私はめいっぱい力瘤をつくってぱしん、と叩き笑ってみせる。
すると、DGも漸く笑ってくれた。
そしてとん、と胸をたたいてこう言った。

「心配いらない。もし相手が見つからなければ、イヤリング、俺作る。」

私の心境は少し複雑だった。
相手から取り戻せなければ、という前提もなんだか悲しいし、
それにあのイヤリングもおしゃれでつけていたというよりは
サマンサに貰ったからつけていた、ってだけだし・・・。
後ろめたさのようなものがまた蘇った。
でも・・・DGは本当に手先が器用なんだ。
DGの作ったものをつけてみるのも面白いかもしれない。
だから、私は言った。

「ありがと、そん時はお願いね。」

それから、DGとは2言3言話してから別れた。

滅入った気分はほんの少し和らいで、のんびり散歩気分。
他の店で揚げパンを調達し、座って食べられそうな場所を探した。揚げパンの入った袋を片手にうろうろと歩き…

ふと、足を止めた。

ザ…―――羽を休めていた鳥の群れが一斉に飛び立った。

私は口を開く。

「お久しぶりね、盗っ人さん。ジュエリーン、だっけ?」

離れた場所でこちらを見る女。
ミニスカートから伸びる白い足にちらりと見える、睡蓮のタトゥ。名前を呼ぶと、そいつは一瞬眉をひそめた。

「ええ。でも盗人とは聞き捨てなりませんね。私は戦利品を頂いただけですよ。他でもない適兵の貴方から、ね。」

そいつは腕を組み不適に笑った。
こちらも負けじと鼻で笑う。

「はっ。言うわね。3人掛かりで不意打ちもしたのにあっさり負けて逃げた割には。」

「あら、幸運の女神のおかげじゃないんですか?次も貴女に微笑んで下さるかはわかりませんけど。」

「運も実力のうち。…まるで一対一なら負けないとでも言いたそうだけど、女神が貴方に微笑むとは限らないよ?」

「ご心配には及びません。運も実力のうち、なのでしょ?」

「っは!なんか勝算でもあるのかしら?あのバカが隊から追い出されて居なくなったとか?」

「そんなことはありませんよ。それに別にヘイト様が居る居ないも関係ありません。手の内も解らぬ相手に油断して痛い目を見ても知りませんよ?」

「へぇ。ヘイト様ってのはどっち?剣士の方?それとも隠れてた方?バカとしか言ってないのによく分かったねぇ・・・?どっちの事か。」

ぴく―――。ジュエリーンのほっぺたが引き攣った。

「お…驚きました。隠れていた彼の気配を読んでらしたんですね。貴方に姿を見せたのはあの時ヘイト様だけでしたから。てっきりヘイト様の方かと。」

苦しまぎれのようなフォロー。
私の悪戯心が首をもたげる。

「何、言ってんの。最初に手裏剣投げたし、最後の撤退で思いっきり姿表してたじゃない。」

ぴくぴく。更にこめかみが引き攣る。

「あぁら…?それでも貴方の前にはほとんどいないじゃないですか?その時点で彼を「馬鹿」と呼べる要素なんてありませんから。私が勘違いするのも無理ないんじゃありません?」

「声、裏返ってるわよ。」

ぎんっ!睨まれた。
お?ちょっと面白い。
私は続けてからかう事にした。

「それに、あの忍者装束の方も同じくらい馬鹿だと思うけど?」

「・・・何故?」

短い返答が返って来た。
私はにやにやと笑いながら言ってやる。

詠唱者<キャスター>に対しての遠くからのアプローチ、おまけに威嚇呪文であっさり退散。気配消して接近すればもう少しやりようもあったはずなのに。格好悪いことこの上ないじゃない。」

しん―――。静まり返る。
ん?反応がなくなったぞ?からかい甲斐がないなあ。
私の悪戯心は留まる事を知らず。
もう一度"ヘイト様"がらみでからかってみることにする。

「まあ、どっちにしろ最初に"バカ"って言われてたの否定してない時点で、少なくとも貴方、"ヘイト様"の方は馬鹿って思ってるんじゃない?きっと本当にどうしようもなく馬鹿なのね?」

くっくっく。笑いながら言ってやった。
あー。たのしい。もしかしたら私極悪人かもしれない。
次の瞬間―――。

―――がし。腕をつかまれた。
ばっと見ると、ジュエリーンだった。
少し離れた場所に居たはずが、いつの間にか近くに寄っていた。
ぞく―――。背筋が粟立つ。

彼女の細められた相貌。
練られた殺気が噴出していた。

「ちょ、ちょっと。ヌブールの村は非戦闘区域よ?」

私は慌てて言う。
此処で問題でも起こしてみろ、私本気でスパイ扱いになる。
ちょっとからかうだけのつもりが、やりすぎた・・・。

「知ってるわ・・・。場所、変えるわよ・・・。」

ぼそりと言う声から殺気が染み出てくる。
空々しかった敬語まで消え去っていた。
―――どうしよう。
場所を変えたところで、私はほぼ謹慎と変わりない身。
此処じゃなくても騒ぎ起こしたらだめなんじゃ?

「嫌よ。別にアンタと戦う為に此処に居るわけじゃないもの。」

「いまさら―――逃げる気?」

・・・言われてみたら、再戦はしたいところだけど・・・。
監視がついてるならめったなことはできない。
けど―――、周りにそんな気配はうかがえない。
仕方ない―――。

「分かったわ。いきましょ?」

私が、そう言うと―――。
ジュエリーンは、にやり、と笑ってみせた。




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